第6回「名取洋之助写真賞」受賞作品展開催のお知らせ
第6回「名取洋之助写真賞」受賞作品展を2011年1月28日(金)より開催します。
30歳までの”新進写真家の発掘と活動を奨励する”ために創設した「名取洋之助写真賞」第5回の受賞作品展が東京と大阪で開催されます。
展示作品は「名取洋之助写真賞」の宮川トム「オーガニック アメリカンズ」(カラー30枚)、「名取洋之助写真賞奨励賞」の中塩正樹「奈良の祭り人 極上の刻」(カラー30枚)です。
入場無料、会期中無休。
会期:2011年1月28日(金)~2月3日(木)時間:10:00~19:00(最終日は16:00)会期:2011年2月25日(金)~3月3日(木)時間:10:00~19:00(最終日は14:00)協力:富士フイルム株式会社
東京会場: | 富士フイルムフォトサロン/東京(フジフイルムスクエア2F) |
大阪会場: | 富士フイルムフォトサロン/大阪(富士フイルム大阪ビル1F) |
主催: | 社団法人日本写真家協会 |
第6回 平成22年(2010年)
社団法人日本写真家協会が新進写真家の発掘と活動を奨励するために、主としてドキュメンタリー分野で活躍している30歳までの写真家を対象とした第6回「名取洋之助写真賞」の選考審査会を、8月30日(月)JCII会議室で、大島洋(写真家)、鎌田慧(ルポライター)、田沼武能(社・日本写真家協会会長)の3氏によって行いました。
応募者はプロ写真家から18歳の大学生までの43名、43作品。男性29人、女性14人。カラー29作品、モノクロ13作品、カラー・モノクロ混在1作品でした。
選考は30点の組写真のため審査会場の制約もあり受付け順に8~9作品ずつ5回に分けて行い、第一次審査で25作品を選び、第二次審査で15作品が、第三次審査で8点が残りました。最終協議の結果、下記に決定しました。
○四次審査通過者
中塩正樹「奈良の祭り人 極上の刻」
宮川トム「オーガニック アメリカンズ」
Keisuke kato「OTHER SIDES OF THAILAND RALLY 」
安田菜津紀「緑の壁を超えて カンボジア HIV感染者の村から」
髙橋あい「ヤマ ムラ ノラ―子どもたちの 未来の子どもへ」
○最終審査通過者
宮川トム「オーガニック アメリカンズ」
中塩正樹「奈良の祭り人 極上の刻」
選考風景
第6回「名取洋之助写真賞」選考風景
写真左より鎌田慧(ルポライター)、田沼武能(日本写真家協会会長)、大島洋(写真家)
(平成22年8月30日 JCII会議室 撮影・小城崇史)
名取洋之助写真賞(1名)
宮川トム(みやがわ・とむ) 1981年東京都生まれ。29歳。 2004年 BA Japanese Studies,University of Stirling 卒業、 2009年 MA Photojournalism & Documentary Photography 、 London College of Communication,University of the Arts London 卒業 現在フリーで活動中。東京都在住。 |
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作品内容 作者は昨年春、三カ月をかけ、アメリカのオーガニック農家10軒にその労働と引き換えに滞在、取材をした。「オーガニックはただ有機の意味ではなかった」と作者が語るように、作品はこれからの人間の生き方を視野に捉えた、これまでになかった今日的な視点とテーマに基づいている。対象に深く関わり、写真のトーンも優れた力強い作品である。 |
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受賞者の言葉 名取洋之助写真賞を受賞できたことは本当に光栄です。写真で伝えたかった私のストーリーに興味を持ってくれる人達がいると言う事を知ると一層やりがいを感じます。今後は写真の技術やストーリーの作り方を向上させながら、より良い作品を作って行きたいと思っています。私にとって、この賞は大きな一歩になります。そしてこのチャンスを与えてくれたJPSにとても感謝しています。ありがとうございました。 |
奨励賞(1名)
中塩正樹(なかしお・まさき) 1984年大阪府生まれ。26歳。 2008年 大阪芸術大学芸術学部写真学科卒業、 同年 有限会社プロフォートサニー入社 スポーツ写真撮影、同社退職。 現在フリーで活動中。奈良県在住。 |
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作品内容 有名な社寺の多い奈良に住む作者は、そうではない無名の社寺や村に伝えられた祭りに、祭りの本質を探ろうと取材した。作品は単なる祭事の紹介ではなく、人間の営みとしての祭事を捉えている。対象に深く入り込み、祭りに参画する人々の姿を多面的に、またダイナミックに捉え、日本人古来の神仏に対する思いと関わりを十二分に伝える作品である。 受賞者の言葉 奨励賞の受賞の連絡を受け喜びで一杯です。本当に有難うございます。奈良の祭り人をテーマとして撮り続けています。自国の文化に誇りを持ち、受け継いだものを次の世代に渡そうとする深い想いを持った名もなき祭り人達。その祭り人達が、年に一度のハレの日に想いを凝縮させた、その一瞬の極上の姿を撮影した作品です。 名もなき祭り人達の想いを少しでも伝えるべく、今後も名もなき祭り人の極上の姿と対峙して行きたいと思っております。 |
審査総評
第6回名取洋之助写真賞の選考を終えて
田沼武能(日本写真家協会会長)
第6回「名取洋之助写真賞」の選考が去る8月30日におこなわれた。今年から新しい選考委員として鎌田慧氏と大島洋氏がその任にあたっていただいた。6回目になると名取洋之助写真賞が若い写真家のプロの道への登竜門として認知度が高くなり、数量こそ減少したが、作品の内容のレベルは高くなり、それも力量の差が少なく、初回の選考から選考委員は緊張の連続であった。テーマの内容も現代における社会問題をとりあげた作品が多く出品されていた。日本国内で撮影したもの、タイで起きた暴動、カンボジア、ラオス、中国、南米などに出向いて撮影しており、なみなみならぬ努力が感じられた。4回に渡り順次賞候補作品を絞り、宮川トム氏の「オーガニック アメリカンズ」が名取洋之助写真賞に中塩正樹氏の「奈良の祭り人 極上の刻」が奨励賞に選ばれた。
「オーガニック アメリカンズ」はアメリカのビジネス優先型の大規模農業が脚光を浴びる現代、アメリカ人の中にも人間未来を考え、有機農業に打ち込む農家のあることを知り、その農場を尋ねあるき3カ月かけて作業を手伝いオーガニックの農作業を経験しながら10カ所を訪ね撮影した作品である。ストーリーはオーソドックスな手法で捉えているが、彼らの目指すオーガニック農業の精神が写し出されており、アメリカにも人間本位に生きることを考える人たちがいることを私たちに伝えている。内容の濃い作品である。
奨励賞の「奈良の祭り人 極上の刻」中塩正樹氏の作品は、ハレの日、祭りに携る人びとが、いかに神に近づき祭事に打ち込もうとしているか、真の日本文化の継承者として祭事にかかわることのよろこび、その心まで表現しようとしている。そこには単なる信仰とくくれない神と人との精神的ふれあいを感じさせる力作である。
今回僅かな差で賞を逃した方々、年齢制限を越えていない方は、来年も再チャレンジして下さい。すばらしい作品の応募を期待しています。
選評
鎌田慧(ルポライター)
若い人たちの応募作品をはじめてみる機会を得た。どんなことにテーマをもとめているのか、という関心があった。閉塞感が強まる世界で、活字のルポルタージュが「現場」を描くのがむずかしくなっているのは、社会ののっぺりした無関心の厚い層に切り込む手がかりを喪っているからだが、清新なレンズの目こそ先行するかもしれない、との期待がある。
宮川トムさんの「オーガニック アメリカンズ」は、農村で動物たちとともに生きる、靜かな瞑想的な生活を描いた、さりげない描写が印象的だった。訴える、というのではない。ともにいて見守っている、というスタンスが、この静謐な世界の奥深さを滲み出させている。家畜とともに循環する有機農業は、商品化のためではない。新しい生き方をもとめる、あらたな共同体の形成であり、未来にむけた営為として注目されている。そのさわやかさを捉えた映像が魅力的で、対象の息遣いを感じさせた。
応募作品では、大自然のなかに生きる人々の生活や孤独や不安や夢をテーマにした、内省的な作品が目についたが、自分と関わる切実さまでは表現されていない。
中塩正樹さんの「奈良の祭り人 極上の刻」は、祭りの光景や様式美を強調するのではなく、ハレのときに、生活者が日常を越境する瞬間の崇高さを、大胆な表現力で描いて内面に迫っている。ひとびとに関わった時間の濃さがよく顕れている。
日本の現実を突き出す応募作品を待望している。
第6回「名取洋之助写真賞」選考総評
大島洋(写真家)
選考に当たって、名取洋之助写真賞創設の意義を改めて実感させられた。過去5回の受賞作品からも感じていたことではあったが、ドキュメンタリー写真を志す新世代が決して少なくないにも関わらず、その発表の場も評価される場も限られてきているからである。応募された43作品をみて、世界各地の災害や反政府運動の現場取材から、都市生活の中の矛盾や不安の内的表現まで、この多様さの中に、世界が抱える混迷の深さ、重さを受け止める思いだった。
その結果、第6回名取洋之助写真賞は宮川トムさんの「オーガニック アメリカンズ」に、奨励賞は中塩正樹さんの「奈良の祭り人 極上の刻」に決まった。
宮川さんの作品はそのタイトルが示すように、アメリカのオーガニック農家に取材したもので、時代の要請にも適う魅力的テーマであるが、この作品が心惹くのはそのためだけではない。電気もない環境で一人生活する人、山奥で栽培する家族、大規模農場、共同生活でオーガニック農業をしている宗教集団など、10軒のオーガニック農家に短期住み込みを重ねながらアメリカ大陸を旅している。オーガニックに関心を持った理由も異なれば、生き方も異なる彼らの姿を通して、ひとが生きることの意味と、オーガニック農業の今後の問題点までも掘り下げたいとの思いが伝わってくるからである。
中塩さんの作品は、奈良周辺の村や町に伝わる数々の小さな祭りを通じて、古から栄々と守り継がれてきた人々の思い、文化や伝統、人と人の絆など、見えにくい世界の視覚化を試みたもので、いわゆる祭り写真とは一線を画するものです。宮川さん、中塩さんの作品に共通していえるのは、テーマや方法論が良いのもその通りなのですが、そこに踏みとどまることなく、写真一枚一枚のイメージの力に賭けていることです。当たり前のようでいて、決して容易なことではありません。