2013年第9回「名取洋之助写真賞」受賞作品展開催のお知らせ
2013年 第9回「名取洋之助写真賞」受賞作品展を2014年2月7日(金)より開催します。
35歳までの”新進写真家の発掘と活動を奨励する”ために創設した「名取洋之助写真賞」2013年第9回の受賞作品展が東京・大阪で開催されます。
展示作品は「名取洋之助写真賞」の山本 剛士「黙殺黙止~福島の消えた歳月~」(モノクロ30枚)、「名取洋之助写真賞奨励賞」の片山 育美「とうふ屋のおじちゃん~a period of time~」(モノクロ30枚)です。
入場無料
東京会場: | 富士フイルムフォトサロン/東京(フジフイルムスクエア) |
会期: | 2014年2月7日(金)〜2月13日(木) |
時間: | 10:00~19:00(最終日は16:00) |
主催: | 公益社団法人日本写真家協会 |
協力: | 富士フイルム株式会社/富士フィルムイメージングシステムズ株式会社 |
仙台会場: | ニコンプラザ仙台フォトギャラリー |
会期: | 2014年3月19日(水)〜4月1日(火) |
時間: | 9:30~18:00(最終日は15:00)日曜日、祝日、休館 |
主催: | 公益社団法人日本写真家協会 |
協力: | 株式会社ニコンイメージングジャパン/富士フイルム株式会社/富士フィルムイメージングシステムズ株式会社 |
大阪会場: | 富士フイルムフォトサロン/大阪(富士フイルム大阪ビル1F) |
会期: | 2014年4月4日(金)〜4月10日(木) |
時間: | 10:00~19:00(最終日は14:00) |
主催: | 公益社団法人日本写真家協会 |
協力: | 富士フイルム株式会社/富士フィルムイメージングシステムズ株式会社 |
2013年第9回「名取洋之助写真賞」決まる。
公益社団法人日本写真家協会が新進写真家の発掘と活動を奨励するために、主としてドキュメンタリー分野で活躍している35歳までの写真家を対象とした2013年第9回「名取洋之助写真賞」の選考審査会を、9月9日(月)JCII会議室で、鎌田慧(ルポライター)、大島洋(写真家)、田沼武能(公社・日本写真家協会会長)の3氏によって行いました。
応募者はプロ写真家から大学在学中の学生までの35名37作品。男性21人女性14人。カラー20作品、モノクロ14作品、混合3作品でした。
選考は1組30枚の組写真のため審査会場の制約もあり受付け順に9~10作品ずつ4回に分けて行い、第一次審査で22作品を選び、第二次審査で9作品が、第三次審査で5作品が残りました。最終協議の結果、下記に決定しました。
○三次審査通過者
齊藤 小弥太 「永遠の園-南インド ホスピス-」
帖地 洸平 「陽のあたる工場~坦々とした日々の中に優しい時間が流れる~」
片山 育美 「とうふ屋のおじちゃん~a period of time~」
高橋 智史 「湖上の命」
山本 剛士 「黙殺黙止~福島の消えた歳月~」
○最終審査通過者
山本 剛士「黙殺黙止~福島の消えた歳月~」
片山 育美「とうふ屋のおじちゃん~a period of time~」
2013年第9回「名取洋之助写真賞」受賞者
山本 剛士(やまもと たけし) 1985年山梨県生まれ。28歳。 日本ジャーナリスト専門学校 写真学科卒業。本橋正義氏に師事。 第3回、第8回「名取洋之助写真賞奨励賞」受賞。 写真家。山梨県在住。 |
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作品内容 これまで受賞の多かった海外をテーマにした作品に比べ、大変地味な作品ではあるが、福島の原発事故と放射能の問題は、現在進行中の国内で最も重要なテーマのひとつであり、それらを継続的に撮影した受賞作品は内容の充実したものであり、その価値は高い。作者の山本剛士氏は同様の原発問題をテーマにした「福島原発事故~『酪農家の記憶』~飯舘村長泥封鎖」で、前回は奨励賞を受賞しており、着実に粘り強くテーマを追い続けた点も受賞に相応しい情熱と信念を感じさせるものである。 |
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受賞者の言葉 「名取洋之助写真賞」は、”どんな逆境があろうとも達成しなくてはならない”と心に決めていた目標でした。「名取賞」を頂けるまでの時間が私自身の写真家としての大きな一歩。それが一番の誇りです。お世話になった方々には、この場を借りてお礼の言葉、感謝の気持ちを申し上げます。感無量です。 |
2013年第9回「名取洋之助写真賞奨励賞」受賞者
片山 育美(かたやま いくみ) 1981年栃木県生まれ。31歳。 2005年3月 大学卒業。現在会社員。東京都在住。 |
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作品内容 作品は、身近な街の豆腐屋を舞台に、店の主人であるおじいちゃんを中心にその閉店までを追ったドキュメンタリーである。淡々とした筆致は、一編の短編映画を想わせるようなしみじみとした味わいを持ち、パートナーとの別れや廃業という淋しい結末を迎えることになりながらも、一人の人間の人生の証しを感じさせる哀感と清々しさに満ちた佳作である。 |
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受賞者の言葉 素晴らしい賞を頂きありがとうございます。写真を撮り始めて約3年。母から御下がりの一眼レフを貰ったことがきっかけでした。1枚の写真の中に音、動き、香り、作者の想いを表現する写真。その難しさの魅力に夢中です。写真の楽しさを教えてくれた母、応援してくださる皆様に感謝しております。写真界の市民ランナーとして、全力で写真表現を楽しみ、この賞に恥じぬよう邁進して参ります。私らしく、私の金メダルを目指して。 |
選考風景
2013年第9回「名取洋之助写真賞」選考風景
写真左より大島洋(写真家)、田沼武能(写真家・公益社団法人日本写真家協会会長)、鎌田慧(ルポライター)
(平成25年9月9日 JCII会議室 撮影・桃井一至)
2013年第9回「名取洋之助写真賞」総評
田沼武能(写真家・公益社団法人日本写真家協会会長)
名取洋之助写真賞の応募作品は総じてレベルが高く、かつ粒ぞろいである。それぞれのテーマの選択、内容表現もすばらしい。それも国内のテーマから海外のテーマまで、長期間かけて撮影したものが多く、中には現代の写真界の行方を風刺したものなど、多岐にわたっており、作品を絞るのはたいへん悩んだ。その結果、今回は山本剛士さんの「黙殺黙止~福島の消えた歳月~」に名取洋之助写真賞を、片山育美さんの「とうふ屋のおじちゃん~a period of time~」を奨励賞に選んだ。
山本剛士さんは「被災者の心~新潟中越地震~」で第3回奨励賞を、「福島原発事故~『酪農家の記憶』~飯舘村長泥封鎖」で第8回奨励賞をと2回受賞している。今回の作品は2011年3月11日の東日本大震災に関わるテーマである。福島原発事故の放射能汚染により住めなくなった大地、帰宅困難地域となり草茫々となった大地、人が消え、人の営みの消えた風景は、不気味な静けさがあり恐ろしさを感じる。作者は、その光景が恐ろしさをこえ何故か美しくも見えるという。裏がえして考えると、そこにはかつて沢山の家族が暮らしていた。その人たちは故郷を放射能の汚染によって避難をよぎなくされ、農業も酪業も生きる術までも奪われてしまった。帰りたくても帰れない沢山の家族が、いまも存在しているのだ。そして何時安全になるのかわからぬまま、人間も大地も放置されている。いまは、報道するメディアの姿も消え、劣化する大地に黙々と通い写真を撮り、警告を発し続けている。そのたゆまぬフォトジャーナリストとしての努力、その作品に名取洋之助写真賞を贈ることを3人の選者の合意により決定した。
奨励賞の片山育美さん「とうふ屋のおじちゃん~a period of time~」は、スーパーなどの大量生産に押されながらもコツコツと作り続けてきたとうふ職人のおじいちゃんが、パートナーのおばあちゃんが病に倒れ、その看病でとうふ作りをあきらめて店を閉めてゆく。その光景を的確に写し撮っており、いまの日本社会に起きている小さな商店の悩み、高齢化問題をさわやかなタッチで表現しており、現代社会をドキュメントしたものと高く評価した。
大島 洋(写真家)
名取洋之助写真賞の応募年齢が今年度から拡大されて35歳までとなった。この時代の中でドキュメンタリー写真を撮り続けることのさまざまな困難とその状況等を考慮してのことだった。今年度応募された37作品のレベルは総じて高く、第一次選考では実に22作品が残り、年齢幅を拡げたことの意味は大きかったと実感させられた。
その結果、名取洋之助写真賞は山本剛士さんの「黙殺黙止~福島の消えた歳月~」に、奨励賞は片山育美さんの「とうふ屋のおじちゃん~a period of time~」に決まった。
山本さんの作品は、福島の第一原発の事故によって帰宅困難区域となった町や警戒区域の現在を確かめるように歩き、その姿を撮り続けた写真群である。震災と原発事故の当初は誰もが強い関心をよせ、多くの写真家も現地に立ったが、時が経つにつれて諦めたり、復興が進んでコントロールされているなどと迷妄や蒙昧主義に陥ったりして、記憶の外に追いやるようになってきている。山本さんの写真は、関心を持続させて現場に足を運び続けることの意義を強く感じさせる。その持続する力は本物で、昨年度も原発事故で村丸ごと生活が絶たれた飯舘村の酪農家を撮った写真によって奨励賞を受賞しているし、さらに第3回の本賞でも新潟中越地震のあった山古志を撮った写真で奨励賞を受賞している。今後のさらなる持続を期待したい。
片山さんの作品は、時代の変化や高齢になったことなどで閉店を余儀なくされた豆腐屋の主人とそのパートナーでもあった兄嫁との生活や、使われなくなってしまった道具たちを誇張することなく、とても日常的な視点で愛情深く撮り続けられていて心に響くストーリーとなっている。今年度の結果は受賞の両作品ともにモノクロームであったが、カラーにも力作は数多かった。紙数もなく、残念ではあるがここではその評価について割愛するよりない。
鎌田 慧(ルポライター)
最終選考に残った作品には、それぞれ印象的なものが多かった。が、テーマを自分に引きつけ、明確にする構成力が問われている。なぜ、その問題にこだわっているのか、が観るひとの心を動かさなければならない。
山本剛士さんの「黙殺黙止~福島の消えた歳月~」は、フクシマの被災地にかかわりつづけるうちに、無人の荒野に心惹かれるになった。その内的プロセスが映しだされている。このあたりの地域がまた「復旧」「復興」することは、もはやあるまい。やがて地図の上から消えていくかも知れない。その怒りと哀惜の情が、一枚ごとの写真をつないでいる。事故以来、通い続けてきた執念と努力を顕彰したい。そして、今後の継続を期待したい。
片山育美さんの「とうふ屋のおじちゃん~a period of time~」は都会の歴史のひとこまである。全国的に「シャッター通り」がふえ、庶民の生業が奪われていく、暴力的な時代になった。市井のひとつのいのちがふっと消えたような哀感が見事に捉えられている。被写体との優しい関係がほほえましい。こうして、またひとり職人が消えていく。
日本の祭り、南部馬の生活など魅力的な仕事も印象的だった。フィリピンのスラム、アフリカの素顔など、海外取材の作品にも秀作が多かった。