今、スマートフォンの普及とともに誰もがカメラを持ち歩き、過去にないほど日々写真が撮られている時代となりました。そして、その被写体の多くは人です。人を撮れば、そこには人間関係が写ります。ではプロ写真家は人を撮るとき、被写体となる相手とどう向き合っているのでしょうか。そこで今回のJPSフォトフォーラムは、「人と向き合う。」と題して、ドキュメンタリー写真の榎並悦子氏、広告写真の白鳥真太郎氏、グラビア写真の渡辺達生氏の3人の「人」を撮り続けている写真家に、ジャンルによる違いはあるのか、大切にしている事は何か、など人を撮る極意を語っていただきます。
(公社)日本写真家協会では平成19年(2007年)より、「JPSフォトフォーラム」を有楽町朝日ホールにて開催してきました。しかし今年度は新型コロナウィルス感染症予防の為、ホールに写真愛好家の皆様にご参加していただいての開催は中止することになりました。そこで第14回となる今年度は、インターネット配信による「2020 JPSフォトフォーラム オンライン」として開催いたします。例年のJPSフォトフォーラムでご好評いただいているパネルディスカッションの形式でスタジオ収録し、写真の魅力や写真が持つ力をお届けします。ぜひアクセスしてお楽しみください。
2020JPSフォトフォーラム オンライン動画配信
●パネリストと作品
榎並悦子(えなみ ・えつこ)
1960年生まれ。京都府出身。大阪芸術大学写真学科卒業後、岩宮武二写真事務所を経てフリーランスとなる。「一期一会」の出会いを大切に、人物や自然、風習、高齢化問題など、幅広いフィールドをしなやかな視線でとらえ続けている。
主な写真集、著作に、『日本一の長寿郷』、『明日へ。東日本大震災からの3年 ―2011-2014―』、『園長先生は108歳!』、『光の記憶 見えなくて見えるもの―視覚障害を生きる』などがある。
写真集『Little People』で第37回講談社出版文化賞写真賞受賞。
作品:モノクロ
視覚障害者施設に暮らすお年寄りたちの日常をとらえたものです。彼女の日課は毎朝お地蔵様にお参りすること。この日は雪景色でしたが、廊下から続く露台に出ていつもと変わらずお地蔵様に手を合わせていらっしゃいました。大学卒業後、ひとつのテーマと向き合った頃の撮影で、切っ掛けは中学生時代の訪問でした。寮母さんたちのお手伝いをしながら、撮影を続けました。当時の撮影はすべてモノクロフイルムです。
作品:マラソン
京都で開催された視覚障害者マラソン大会で撮影したものです。ウォーミングアップの時から、終始楽しそうに走っていたおふたり。赤い“きずな”(伴走ロープ)を短く握り、呼吸をぴったりと合わせて走る姿は、爽やかな風の中をすり抜けているようにも感じられました。走ることの喜び、楽しさ、高揚感が全身にあふれているようで、こちらも元気をもらいました。
作品:犬と女性
トロンボーンソリストとして活躍する鈴木加奈子さんと盲導犬のアリエル。生まれつき弱視だった加奈子さんは3歳からピアノを習っていましたが、トロンボーンの音色に魅せられて高校からは本格的に演奏を始めました。大学の音楽部器楽学科は首席で卒業。現在は音楽教室を主宰し、演奏活動も行っています。アリエルが加奈子さんに寄り添う様子に、ふたりの信頼関係を強く感じた一枚です。
白鳥真太郎 (しらとり・しんたろう)
長野県出身。千葉大学工学部写真工学科卒業。(株)資生堂宣伝部写真部、(株)博報堂写真部(現(株)博報堂プロダクツ)を経て、1989年白鳥写真事務所設立。
ADC制作者賞、毎日広告デザイン賞最高賞、日経広告賞グランプリ、APAアワード経済産業大臣賞他受賞歴多数。2018年藍綬褒章受章。
2008年より公益社団法人日本広告写真家協会会長。写真館の4代目として生まれ、ポートレート写真に定評がある。
作品:岡本太郎氏
1999年に発表した写真集『貌 KAO 白鳥写真館』の表紙を飾った作品。
コマーシャルの写真をこの本を上梓するために許可を得て使わせて頂きました。
カラーリバーサルフィルムで撮影していた時代で、スキャニングを自分で覚えて、データをモノクロに変換しています。その当時は、カラーとモノクロではライティングを変える事が一般的でしたが、Adobe Photoshopと出会ったおかげでアナログ×デジタルのハイブリッドな作品ができました。
作品:北野 武氏
2016年、60歳を越えてなお活躍される方々に「これから」を語ってもらい、そのポートレートとともに発表した写真集『貌・KAOⅡ 白鳥写真館「これから…」』の表紙の作品。企画にご賛同頂いた100名の方々ほとんどを私の事務所にて撮影させて頂きました。武さんが「今日は写真撮られると言われて、風呂へ入って来たよ」とスッキリした顔で入って来られて嬉しく思いました。この写真の前後の笑顔のカットを色々な所で使って頂き、それもまた嬉しいです。
作品:大杉 漣氏
前述の20年程前の『貌』の時に、その当時Vシネマファンだった私が大杉さんにご連絡し出演して頂きましたが、その後メジャーな大作にも出られるようになり、時々お電話頂き、その都度撮らせてもらいました。『貌Ⅱ』の企画にも賛同して頂き、この時はストレートに前を向いた写真を選びました。まだまだ今後のご活躍を期待しておりましたが、早過ぎるご逝去を大変残念に思います。
渡辺達生(わたなべ・たつお)
1949年生まれ。山梨県出身。成蹊大学経済学部卒業。独学で写真を学び、在学中から『週刊サンケイ』で報道写真、雑誌『GORO』(小学館)でグラビア写真を撮り始める。その後、『写楽』『週刊ポスト』『週刊プレイボーイ』の雑誌メディアを中心に月刊誌、コマーシャルフォト、レコードジャケットなどと幅広く活躍。
200冊を超える女優、アイドルの写真集を手掛け、4,000人程の人々を撮影。最近では同年代の高齢者を撮りたくなり”寿影”というプロジェクトで高齢者を撮影している。
作品
10歳から96歳まで40年間人ばかり撮ってきました…。
まずは、会って撮影するまでに体力の半分以上を使い、笑い声が出る関係にしてからカメラを持ち出し撮影の開始です。そして撮影の最後はピース!をパチリと一枚。これで終了…その間10分。僕の仕事です…4,000人もこれで撮りました。
司会 佐々木広人(ささき・ひろと)
1971年生まれ。秋田県出身。朝日新聞出版 雑誌本部長 兼AERA dot.編集長(『アサヒカメラ』元編集長)。
リクルートの海外旅行情報誌『エイビーロード』編集部を経て、99年に朝日新聞社に移籍。週刊朝日副編集長、『アサヒカメラ』副編集長などを経て、2014年4月から5年間、『アサヒカメラ』編集長を務める。2019年4月から雑誌本部長、今年4月からはニュースサイト「AERA dot.」編集長を兼務。2012年新語・流行語大賞トップテン入りした「終活」の生みの親でもある。