2023年4月15日(土)、第1回技術研究会「ミラーレス交換レンズの魅力2023、CP+で魅せた製品群」を、株式会社ケンコー・トキナー本社(東京都中野区)で開催しました。このイベントは、昨年10月12日(水)に開催した「ミラーレスカメラ用交換レンズの魅力に出会う」が好評だったことを受けて、その続編として多くの人が参加しやすい週末に開催しました。前回と同様、JPS正会員だけでなく非会員の参加も募り(非会員は参加費500円が必要)、Zoomを使用した正会員対象のオンライン参加も実施されました。
(取材・レポート:JPSホームページ委員 吉森信哉)
●研究会内容と講師
今年の2月23日(木)~26日(日)に、パシフィコ横浜で開催された「CP+ CAMERA & PHOTO IMAGING SHOW 2023」。そこで発表や展示された新製品や話題製品を取り上げながら、ミラーレスカメラ用交換レンズを活用するための知識や使いこなし術などを解説します。また、製品の企画や製造段階でのエピソードなども紹介されました。講師を務めるのは、レンズメーカー3社の担当者です。株式会社ケンコー・トキナー:田原栄一氏。株式会社シグマ:桑山輝明氏。株式会社タムロン:西角久美子氏。以上の3名です。なお、イベントの司会進行は、JPS企画委員の藤田修平氏が担当しました。
今回の技術研究会には、会員33名(リアル参加27名・オンライン参加6名)、賛助会員1名、
非会員20名。以上、合計54名の参加がありました。
●ケンコー・トキナー
現代に甦る反射望遠レンズを多数発売
株式会社ケンコー・トキナー チーフデモンストレーター:田原栄一氏
先陣を切るのは、ケンコー・トキナーの田原栄一氏。取り上げる製品は、トキナー反射望遠レンズと、ZEISSブランドの単焦点レンズです。
トキナーは、1980年代に超小型の反射望遠レンズ(反射屈折=カタジオプトリック光学系のレンズ)のTM500を発売していました。その製品をミラーレスカメラに合わせて再設計した製品を含め、2022年に5本の反射望遠レンズ(SZシリーズ)が発売されました。いずれの製品も、通常の望遠や超望遠レンズより小型で軽量な点が魅力ですが“反射望遠レンズは開放F値が暗い”というデメリットもあります。ですが、現在のデジタルカメラは高感度性能が向上しているので、手ブレ防止に必要なシャッター速度が得られやすくなっています。そして、ミラーレスカメラの進化した電子ビューファインダーで、MFでのピント合わせが快適かつ正確に行えます。これらの理由によって、従来の一眼レフ用の製品よりも反射望遠レンズの実用性が高まっている、とのことです。
5本の反射望遠レンズの中で、最もコンパクトな「SZ 300mm PRO Reflex F7.1 MF CF」を解説しているところ。なお、5本の反射望遠レンズは、製品によって対応するフォーマットやマウントが異なる。
「ZEISS」ブランドに関しては、現在ミラーレス用として販売されている3タイプ(Batis、Touit、Loxia)の製品の違いや特長を紹介。BatisはモダンなデザインのAFレンズで、有機ELディスプレイで距離や被写界深度を表示します。TouitはAPS-Cフォーマットに特化して作られた小型軽量なAFレンズです。なお、BatisはソニーEマウント用だけですが、TouitはソニーEマウント用以外にフジXマウント用も発売されています。Loxiaは小型設計のMF専用レンズで(電子接点を搭載していてExif記録に対応)、昔ながらの質感や操作フィーリングが堪能できます。また、フィルター径も52mmに統一されているそうです。
●シグマ
光学性能を追求しつつ各ラインの特色を訴求
株式会社シグマ カスタマーサポート部 プロサポート課:桑山輝明氏
次に講義を行うのは、シグマの桑山輝明氏です。前述のCP+に出展した製品群と、その後に発表した新製品について紹介されました。
まずは“シグマレンズの探し方”として、2012年から展開している3つのレンズカテゴリー(Artライン、Contemporaryライン、Sportsライン)の解説。そして、Artラインの「50mm F1.4 DG DN | Art」の紹介です。この製品は、中心から周辺まで画面全域でフラットな性能が発揮できるよう設計されています。スクリーンに投影したMTFチャートを使って、その光学性能の高さが紹介されました(以降の製品についても紹介。波動光学的MTFと幾何光学的MTFの違いについても言及)。また、この製品を含めたArtラインレンズに搭載されている、絞りリングのクリックスイッチやロックスイッチなどの活用法についても言及されました。
標準から超望遠までカバーできる10倍ズームのSportsライン「60-600mm F4.5-6.3 DG DN OS | Sports」は、600mm単体で通用する高画質を目指して設計されました。そのうえで、高画質をキープしながらどれだけ広角側に拡大できるかを追及した結果、その焦点距離が60mmにたどり着いた、とのことです。また、60mm時の最短撮影距離が45cmと短いことや、200mmの最大撮影倍率が1:2.4でマクロ的な撮影が行えることなど、実用の際の特長についても紹介されました。
そして、CP+後に発表された製品の紹介です。Contemporaryラインの中で“コンパクト、オール金属製、高い光学性能”の3つの要素を兼ね備えたIシリーズ。それに属する、超広角「17mm F4 DG DN | Contemporary」と、標準「50mm F2 DG DN | Contemporary」の2本です。Iシリーズは、ミラーレスカメラ用の新シリーズですが、小型軽量ボディにマッチするサイズや重さ、レンズ本体やフードの質感や触感の高さなどが追求されています。付属するフロントキャップは、マグネット式メタルキャップとプラスチック製の通常キャップの2種類。こういった仕様のこだわりも、Iシリーズ製品の魅力のひとつといえるでしょう(45mm F2.8 DG DN | Contemporaryは、プラスチック製の通常キャップのみ付属)。
取り上げた製品の作例写真を、スクリーン上で紹介。これは、17mm F4 DG DN | Contemporaryの最短撮影距離(12cm)を生かして撮影されたもの。
●タムロン
新ファームウェアの開発がレンズを進化させる
株式会社タムロン 映像事業本部 マーケティング企画部広報:西角久美子氏
最後の講義を行うのは、タムロンの西角久美子氏です。まず、CP+に出展した製品を紹介する前に、CP+会場(タムロンブース)に展示した、現地からトラックで搬入した“青森のねぶた”の説明がありました。
そして、2月20日に開発発表された、大口径超広角ズームレンズ「11-20mm F/2.8 Di III-A RXD」フジXマウント用の、特長や仕様の解説です。大口径の高画質設計でありながら小型軽量である点や、最短撮影距離15cmでワイドマクロ撮影が可能になる点などがアピールされています。また、合計で5本になるXマウント用の中から「18-200mm F/3.5-6.3 Di III VC」と「150-500mm F/5-6.7 Di III VC VXD X」。そして、ニコンZマウント用の「70-300mm F/4.5-6.3 Di III RXD」。これらの製品の作例写真などもスクリーン上で紹介されました。
また、製品自体ではなくソフトウェアの紹介もありました。対象レンズは、超望遠ズームレンズシリーズの「150-500mm F/5-6.7 Di III VC VXD」と「50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD」。これらの製品が、昨年リリースされた最新のファームウェアで、手ブレ補正やAFの性能が大幅に向上しているのです。
この新しいファームウェアを開発する際のフィールドテストについても言及がありました。150-500mmと50-400mm用のファームウェアでは、6つの撮影シーン(新幹線、ドッグラン、飛行機、競輪、バイクのレース、サッカー)を想定してテストが行われました。被写体の大きさ、速度、撮影距離。そういった条件も想定します。テスト内容はレンズの種類によって変わりますが、今回のファームアップの最重要ポイントは“カメラとレンズの情報交換スピードの見直し”。この情報交換が高速かつ高精度に行われることで、連写時のコマ遅れが格段に減り、同じ速度の被写体と速度変化のある被写体のどちらもAF追従性能が改善されました。
ミラーレス用に開発したレンズの“キモ”となるポイントは、レンズ自体(光学と機構)だけでなく、ソフトウェアも重要になってくる。それを多くの人に知ってもらうために、ソフトウェア改善のためのフィールドテスト内容を紹介した。……とのことです。
スクリーンを使って、超望遠ズームレンズ用のファームウェア開発のための検証撮影(フィールドテスト)の解説。6つの撮影シーンによって、その検証内容のポイントは変わってくる。
●全体の質疑応答
レンズメーカー3社の担当者による、各社約30分ずつの製品の紹介や技術解説を終えて、全体の質疑応答に移りました。参加者からは、ケンコー・トキナーの反射望遠レンズに対して「昔の製品は周辺減光があったように感じたが、今回のミラーレス用の製品はどうなのか?」という質問。そして、シグマの製品に対して「ニコンZマウント用の製品がようやく3本発売されるが、まだ本命の製品が揃っていない。今後の展開を伺いたい」といった質問が出ました。
参加者からの質問に答える、シグマの桑山輝明氏。「今後のニコンZマウントの展開を」という、何とも答えにくい質問に苦笑い。だが、今回の3製品発売後の意見も聞いて、今後の展開を考えたい、という回答があった。
●製品ハンズオン~終了
オンライン参加の人はここで終了です。そして、最後にレンズメーカー3社の製品群の「製品ハンズオン」が実施されました。参加者たちは、今回取り上げられた注目製品や、各自が気になる製品を実際に手にしながら、メーカー担当者に感想や意見を述べていました。この「CP+2023」さながらの製品ハンズオンは、参加者とメーカー担当者の双方にとって有意義な時間になったようです。
シグマのコーナー。紹介されたArtライン「50mm F1.4 DG DN | Art」や、コンパクトでオール金属製のContemporaryラインのIシリーズなどが目を引く。
ケンコー・トキナーのコーナーには、トキナーブランドの製品と、ZEISSブランドの製品が並ぶ。
タムロン「50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD」を試写中。
注目レンズ製品が並べられた3社のコーナー(テーブル)は、どこも活況を呈していた。
ケンコー・トキナー
シグマ
SIGMA 60-600mm F4.5-6.3 DG DN OS | Sports
SIGMA 17mm F4 DG DN | Contemporary
SIGMA 50mm F2 DG DN | Contemporary