【受賞の言葉】
今、撮らなければならない写真がある。フィルムからデジタルへの移行を経験し、写真の大衆化を目の当たりにした世代の私は、現代美術としての前衛的表現にも関心はある一方、これまでの写真が持っていた記録としての役わりも大切にしてきた。9カ月費やした北極遠征計画が出発直前にパンデミックで頓挫し、ウクライナへの砲撃はシベリア遠征の中断を余儀なくされた。多くの資金と行先を失い、人生のいろいろが限界だった。半生を賭けてきた写真を、辞めてしまおうと思った。技術の進歩が生み出す視覚表現、承認欲求、広告戦略。目に映る世界がいくら華やいでも、本質を静かに突きつけるストレート写真の強さに心が震えた。写真は行動と体験をともない、被写体と一時的、もしくは長期的に関係を結ぶ。あの時、自分の賭けごとのような写真は終えたのだろう、「これが作品だ」と必死に付加価値を見出そうとしていた写真は、森や動物たちを育てる木の実のようで、写真という行為のなかで「自分自身の方が作品化されていく」。そう思えるようになった。坦々と準備を進めると、私は再び北極に向かった。今回の受賞はこの時代に写真を続けていく勇気と役目を与えてくれました。私にとっては言葉にできないくらいの感謝でしかありません。
【第7回笹本恒子写真賞 受賞理由】
グリーンランドの奥地に住む先住民を訪ね、撮影を続けるその行動力と圧倒的な表現力で撮影された写真をまとめた大型の写真集など、熱量を強く感じさせる作家活動に対して。
第7回 笹本恒子写真賞受賞記念展 遠藤 励 写真展「MIAGGOORTOQ(ミアゴート)」
会 期:2024年12月19日(木)〜25日(水)
時 間:10:00~18:00(日曜休館、最終日15:00まで)入場無料
会 場:アイデムフォトギャラリー「シリウス」
住 所:東京都新宿区新宿1-4-10 アイデム本社ビル2F
ウェブサイト:https://www.photo-sirius.net/
主 催:公益社団法人 日本写真家協会
大自然の絶対的な威厳とその迫力。一方で雪に囲まれた北極圏の静けさ、緊張感など白銀の世界を知り尽くしたからこそ描ける緩急ある表現力は見るものを圧倒する。 熊切大輔(写真家)
絶滅危惧種ともいえる狩猟民と行動を共にし、命と命がギリギリで対峙する希有の現場に立ち合う、その行動力と執念に圧倒される気分だ。獲物の解体、おびただしい血にまみれた肉塊など、生きてゆくための切実な現場と、その背後に広がる極北の壮大にして夢幻の風景にも凄みがある。 野町和嘉(写真家)
文明社会では都合が悪いことのように避けられていることが、実は、美しくて神々しい。そして、文明社会のなかで優れていると評価されていることが、いかに欺瞞に満ちていることか。 佐伯剛(写真家)
遠藤 励 プロフィール
1978年 長野県大町市に生まれる。
1997年 スノーボードの黎明期を目撃し、スノーボーダーを撮り始める。
独学で写真を始める。
1998年 ボードカルチャーの専門誌を中心に写真表現を開始。以来、スノーボード写真の作品化、文化・潮流の撮影を継続。
2017年 北極圏の民俗プロジェクトに着手。2024年日本写真協会新人賞受賞。
【個展】写真展
2024年「世界の果てに見えるもの」大町市企画展(長野)
2024年「MIAGGOORTOQ」富士フイルムフォトサロン(東京)
2023年「MIAGGOORTOQ」Gallery AL (東京)
2018年「北限の今に生きる」富士フイルムフォトサロン(東京)
2018年-2019年「遠藤 励 写真展」82ストリートギャラリー(長野)
2016年「inner peace」Creative space Hayashi(神奈川)
2016年「Art of snow players」Gallery AL(東京)
2015年「水の記憶」富士フイルムフォトサロン(東京)
2012年「Snow meditation」Fire king cafe(東京)
【写真集】
『inner focus』2015年、小学館。『MIAGGOORTOQ』2023年、自主制作。
【笹本恒子写真賞について】
わが国初の女性報道写真家として活躍された笹本恒子氏(1914~2022)の多年にわたる業績を記念して、実績ある写真家の活動を支援する「笹本恒子写真賞」を平成28(2016)年に創設。選考委員は佐伯剛(編集者)、野町和嘉(写真家・日本写真家協会前会長)、熊切大輔(日本写真家協会会長)(敬称略)。
笹本恒子(ささもと・つねこ)略歴
笹本恒子氏は1914(大正3)年東京生まれ。画家を志してアルバイトとして東京日日新聞社(現毎日新聞社)で、紙面のカットを描いていたところ、1940(昭和15年)財団法人写真協会の誘いで報道写真家に転身。日独伊三国同盟の婦人祝賀会を手始めに、戦時中の様々な国際会議などを撮影。戦後はフリーとして活動をし、安保闘争から時の人物を数多く撮影。JPS創立会員。写真集の出版、執筆。写真展、講演会等で活躍した。2022年8月15日老衰にて逝去。107歳。
受賞歴
1996年東京女性財団賞、2001年第16回ダイヤモンド賞、2011年吉川英治文化賞、日本写真協会功労賞、2014年ベストドレッサー賞特別賞受賞。
2016年写真界のアカデミー賞といわれる「ルーシー賞」(生涯にわたる業績部門)受賞。