フルサイズミラーレス一眼カメラ「Sシリーズ」のフラッグシップモデル、LUMIX S1R(DC-S1R)
有効4730万画素の高画素CMOSセンサーを採用
以前に、先進のAF機能「AI技術を活用した被写体自動認識AF」を、パナソニック株式会社への開発インタビューで紹介しました。今回は、その被写体自動認識AFを搭載したフルサイズミラーレスカメラ「LUMIX S1R(DC-S1R)による実写レポートをお伝えします。このカメラの被写体自動認識AFは、人物だけでなく、動物(鳥、イヌ科、ネコ科)が認識できるのが大きな特長です。そこで、動物園でいろんな撮影に使用して、その実力や使用感を探ってみたいと思います。
(撮影と執筆:JPS 吉森信哉 機材協力:パナソニック株式会社)
いろんなシチュエーションで動物認識AFの実力をチェック!
動物認識機能のON/OFFは「AFモード」の項目で行う。AFモードボタンを押して選択画面を表示させ、画面上部に並ぶアイコンの中からいちばん左の「自動認識」を選択。そして、カーソルボタン(十字方向のボタン)の上ボタンを押すたびに、認識する被写体に動物を加えるか否かが切り替わる。
CASE:1 被写体の手前に多くの障害物
まず最初は、来園者が入れる大きなバードケージ内で、止まり木の上にいるヘラサギを狙ってみました。ヘラサギの手前には、葉が密集する枝があるため、AFモードが「225点※1」や各タイプの「ゾーン」では、手前にある枝にピントが合ってしまいます。そこで、こういう場合には「1点」や「1点補助※2」に設定して、枝の隙間から見えるヘラサギの位置にAFエリアを移動させてピントを合わせるようにするのが一般的です。しかし、少し構図が変わったり、ヘラサギが動いてしまうと、移動させたAFエリアから被写体が外れてしまう事が多くなります。
そういうケースでも、LUMIX S1Rの動物認識AFは、しっかりとヘラサギの形を認識して、そこにピントを合わせてくれました。もちろん、多少の構図変更や被写体移動にも、しっかり対応されました。
※1 225点の中からカメラが自動でAFエリアを選択するモード
※2 基本的には1点のAFエリアでピントを合わせるが、そこから被写体が外れた場合には周囲の補助AFエリアでピントを合わせてくれるモード
止まり木の上のヘラサギのフォルムを捉えるには悪くない撮影ポジション。だが、その手前に立ち塞がる、葉が密集した多くの枝。正直「この状況はツライかも」と思ったが、LUMIX S1Rの動物認識AFは、迷う事なく撮りたいヘラサギの形(頭部)を捉える。
パナソニック LUMIX S1R LUMIX S PRO 70-200mm F4 O.I.S(200mmで撮影) シャッター優先オート F4 1/500秒 WB:オート ISO1600
※再生画面の一部
CASE:2 画面中央が大きく空き、被写体は後ろ向き
使用レンズの焦点距離にもよりますが、被写体までの距離の長い場合、画面上のサイズが小さくなる事が多々あります。また、周囲の状況や風景を生かすため、あえて被写体を小さめに写す事もあるでしょう。そういう場合、画面の中央付近に別のモノが入ったり、大きめに空間(背景)があると、被写体以外の部分にピントが合いがちです。
このサル山を狙ったケースでは、サルそのものを大きく写すより、緑豊かな周囲の環境がよくわかるような写真にしたいと考えました。そこで、画面中央付近にはサル山の先にある木立ちを入れ、その右下あたりに被写体となるサルが入る構図にしました。被写体が画面中央付近になくても、AFモードが「225点」ならカメラが自動でAFエリアを選択してピント合わせ。…のはずですが、残念ながらこのケースでは、サル山の先にある木立ちにピントが合ってしまいました。
そこで、AFモードを「自動認識(顔・瞳・人体・動物)」に変更します。鳥でもイヌ科でもネコ科でもない動物でしたが(しかも後ろ向き)で、見事にサルを被写体として認識して、その部分にピントが合いました。
画面の中央を大きく空ける(背景が占める)大胆な構図だが、動物認識AFは迷うことなく“後ろ姿のサル”を認識してピントを合わせてくれた。
パナソニック LUMIX S1R LUMIX S PRO 70-200mm F4 O.I.S(172mmで撮影) シャッター優先オート F4 1/125秒 WB:オート ISO1600
自動認識(顔・瞳・人体・動物) ※再生画面の一部
225点 ※再生画面の一部
CASE:3 同系色の壁に囲まれた動物
丸太を並べて固定させた壁と、年季の入った錆色の扉。その前にいるサイにカメラを向けてみます。撮影中は意識しなかったのですが、よく見ると被写体と周囲(壁と扉)の色合いは何となく似ていますね。しかも、このサイも動物認識AFの対象には該当していません。ですが、このケースでも迷うことなく動物を認識してピント合わせが行われました。
サル山のケースとは違い、被写体と背景の距離が近い。だから、仮に背景の方にピントが合っても、極端なピンボケ写真にはならないだろう。だが、動物認識AFが確実に機能すれば、余計な心配をしないでシャッターチャンスに集中できる。
パナソニック LUMIX S1R LUMIX S PRO 70-200mm F4 O.I.S(172mmで撮影) シャッター優先オート F4 1/125秒 WB:オート ISO1600
※再生画面の一部
自動認識(顔・瞳・人体・動物)
どちらも動物認識AFが適切に機能。動くサイの位置や向きに応じて、AFエリアの位置や形も変化している。
CASE:4 動物認識のAF枠が複数
動物認識AF」機能をONに設定すると、画面上にいる動物を“最大3枠”まで、AF枠で表示されます。その場合、どれを主役にするか(ピントを合わせるか)で、複数のAF枠から1枠を選択する事になります。この選択操作は至って簡単でした。モニターを見ながらの撮影では、選択するAF枠を直接タッチ。そして、ファインダーを覗く撮影では、ジョイスティックの押し込み操作で、選択するAF枠を切り替えていくのです。
モニター上のタッチ操作と、ファインダーを覗きながらのジョイスティック操作。どちらが適した方法かは、使用機材や被写体、個人の好みなどによって変わるでしょう。ですが、今回のような“望遠ズームを使った動物撮影”では、後者の撮影スタイルの方が、カメラ保持や構図を安定させる観点からみて有利と言えます。
AFモードボタンとAF ONボタン。その2つ並んだボタンの下にあるのが、ジョイスティック。このスティックを押し込むたびに、複数表示されたAF枠の選択枠が切り換わる。
画面左下には前方のサル。右上には後方にいる2匹のサル。「動物認識AF」機能がONだと、前後両方のサル(後方は右側のサル)を認識した。そして、ジョイスティックの押し込み操作で選択AF枠が切り換わる事を確認した後、前方のサルを選択して撮影した。
パナソニック LUMIX S1R LUMIX S PRO 70-200mm F4 O.I.S(200mmで撮影) シャッター優先オート F4 1/125秒 WB:太陽光 ISO2500
※再生画面の一部
CASE:5 「動物認識AF」有無によるピント精度の違い
人物と動物とでは、被写体としての特徴が、いろいろ違います。たとえば、動物は品種によって“頭部の形状”が変わってきます。鼻先が長いもの、角が伸びているもの、耳の形や大きさが特殊なもの。そういった違いが、動物撮影の面白い部分であり、ピント合わせが難しくなる部分でもあります。
そういう特徴的な動物の表情を、望遠や超望遠レンズで大きく狙うと、思わぬ部分にピントが合ってしまった「失敗作」も生まれやすくなります。ですが、動物認識AFが顔の部分を的確に認識してくれれば、思わぬ失敗作を減らす事ができるでしょう。
日向の砂の上に寝そべり、ウトウトするフェネック。その可愛らしい表情を、望遠ズームを使って狙う。その際、後ろに見える影を意識して、構図にも変化を付けた。動物が画面中央付近から外れて、動物と周囲の色も近い。そういう意地悪な条件だったが、動物認識AFによって思い通りの部分(顔)にピントが合った。
パナソニック LUMIX S1R LUMIX S PRO 70-200mm F4 O.I.S(199mmで撮影) シャッター優先オート F4 1/1000秒 WB:オート ISO100
動物認識AFによるピント位置 ※再生画面の一部
↓
動物認識AFで撮影した写真を拡大。顔の部分にしっかりピントが合っている。
225点によるピント位置 ※再生画面の一部
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225点(カメラ自動選択)で撮影した写真を拡大。長い耳の先端にピントが合ってしまい、顔の部分はピンボケ状態になった。
~快適&確実な撮影を可能にする「動物認識AF」~
オリンパス、キヤノン、ニコン、パナソニック、ソニー。現在(※2021年2月執筆時)、これらのカメラメーカーから、動物対応のAF機能を搭載したモデルが発売されています。その機能内容や設定・操作方法はメーカーで多少異なりますが、そのAF機能が有るか無いかで“動物撮影時の快適度”は変わってくるでしょう。
今回使用したパナソニック機では、AIの先進技術であるディープラーニング技術を、被写体の認識アルゴリズムに応用。人物撮影での高度な認識AF機能に加え、動物認識AFも実現しています。動物園での撮影で、その認識性能の優秀さや、設定・操作方法の分かりやすさなどを体感しました。そして、動物撮影時のピント合わせでの手間やストレスが軽減される事で、これまで以上に“動物の動きや表情に集中できる”と、実感できたのです。
被写体を認識する先進のAF機能が搭載されたカメラ。それを活用する事で、撮影者はこれまで以上に“一瞬のシャッターチャンス”に対応できるようになる。