JPS展メルマガ特集「蒸気機関車の撮影と作品選び」持田昭俊
『蒸気機関車の撮影方法』
蒸気機関車撮影の醍醐味は、何と言っても煙のさまざまな表情に尽きる。その日の天候で気温、湿度、風向きなどが異なり、そこから煙を予測する。機関車の状態、機関士の技量により、毎回同じ煙になるとは限らない。
そのため、常にカメラ1台と臨機応変にズーミングできるズームレンズ1本が圧倒的に便利だ。その中で高倍率ズームは、最短と最長の両方で押さえておくと2通り以上の絵柄ができる。最短側では風景が入る説明的なカットに使えるし、最長側では蒸気機関車のメカニックな表情まで表現できる。
こうした使い分けで機動力を生かした蒸気機関車撮影を心がけるとよい。
『蒸気機関車の撮影マナー&気をつけること』
蒸気機関車は1日1往復、もしくは1日片道しか走らないのがほとんどである。鉄道写真の中では一番難しい部類に入る。そのため、煙が出そうな場所はどこでも混雑している。
私の場合は当日にロケハンし、1日1ケ所を基本にして撮影スタンバイする。しかしながら、現場に主のいない置き三脚を時々見かける。地主や撮影者同士のトラブルにもつながり、強風で置き三脚が倒れてしまい、鉄道往来の支障になることもある。
一番大切なのは譲り合いの精神である。あいさつから始まり、撮影者同士が三脚を詰めあい、地元の人の顔が映る場合は一声かける。そうすることで、お互いにいい作品にもつながるのである。
『公募展応募のヒントやアドバイス』
ここに3枚の写真が並ぶ。
1枚目は長い勾配区間に前照灯の反射でレールが輝いている。
2枚目は煙のいい形を捉えたもの。
3枚目は煙を主体にした作品。
公募展に応募するにはどの作品にするか迷うことだろう。
横位置ではどうだろうか。3枚のひまわり畑の写真を例にする。地主さんがSL銀河に合わせて50ヘクタールに7万本のひまわりを育てている場所だ。個展のため、この場所に5日間通って撮影した。
1枚目はSL銀河の後追い、
2枚目は青空の下で、
3枚目は煙を主体にした。
個展では、前後の作品群の流れを生かして3枚目の写真を選んだ。この場合も、公募展へ応募するにはどの作品にするか迷うことだろう。
以前、コンクール展の審査員として机上で並べたプリントを審査したとき、3点とも似たような作品があって、一次審査で落とされるケースもあった。審査員はただ単に作品を選ぶのではなく、出品者がどんな気持ちで撮っているのかを重視して作品を見極める。「これだ!」と思える作品1枚を出品する気概が大切だ。
次に大切なのはタイトルの付け方。奇をてらうタイトルよりも素直なタイトルのほうが、審査員としては選びがいがあるのではなかろうか。例えば「冬の日」とか「夏」など、わかりやすく、短いタイトルをつけた方が作品として成り立つのではないか、というのが私の考えだ。
どしどしと公募展に応募してください。
持田昭俊プロフィール
1960年東京生まれ。筑波大学附属聾学校高等部専攻科デザイン科卒業。1987年、キヤノンサロン初個展「Train吹けば…」開催を機に鉄道写真家となる。現在は新幹線を中心にさまざまの鉄道を精力的に撮り続けている。鉄道会社やカメラの広告写真、雑誌のグラビア撮影などで活躍中。2022年には写真展「響 煙 蒸気機関車」(キヤノンギャラリー)を開催した。
『とっきゅうJAPAN!』(小峰書店)、『JTBの鉄道旅地図帳』(JTBパブリッシング)など著書多数。
(公社)日本写真家協会会員、日本鉄道写真作家協会会員。
鉄道写真家 持田昭俊 オフィシャルHP:http://mochida-photo.xrea.jp/
蒸気機関車写真集『響 煙』
イカロス出版刊
B5判72P
定価1980円(本体1800円)
蒸気機関車の撮影をライフワークとしている鉄道写真家 持田昭俊渾身の写真集。2000年代以降に撮影したものからおよそ70点を厳選。複数の章に分け、“機関車そのもののカッコよさ”や“四季のなかを走る姿”など、さまざまな視点から捉えた作品を掲載している。
また、すべての作品に、著者のコメントと詳細な撮影データを掲載。作品集としてだけでなく、蒸気機関車を撮影する際の参考にもなる内容となっている。