「鉄道写真は旅とロマン」写真家 大鶴倫宣
プロとして鉄道写真に向き合って間もなく20年。アマチュア時代を含めると40年近く撮り続けています。基本的に飽き性の僕が、なぜこれほどまでに鉄道という被写体に惹きつけられているのか、ちょっと考えてみました。
色々と思考を巡らせていると、おぼろげながら「旅」と「ロマン」というキーワードが浮かび上がってきました。
僕は小さな頃から旅が好きで、小学4年生の頃から一人で切符を握りしめて1日中鉄道に乗るだけの旅をしていました。大学生になる時や就職する時の旅立ちはいつも寝台列車でした。
そして今でも仕事であれプライベートであれ、鉄道に乗る時はわくわくと胸が高鳴ります。駅に向かえば、そこには鉄道を利用する人で溢れています。出会いや別れの光景を目にすることもあるでしょう。
車窓から眺める灯りのついた家並みを眺めながら「あの家の今日の晩御飯はなんだろう」とか。駅に到着して降りた列車が視界から消えるまでテールライトを眺めるのも大好きでした。そんな一つ一つのシーンが鉄道にロマンを感じる瞬間です。
その瞬間を写し止めようと、いつもカメラがありました。今も昔も思った通りに撮れることは少ないけれど、その試行錯誤もまた楽しからずや、なのです。
プロとなった今では、鉄道写真の中でも新幹線をメインの被写体にしています。かつては高度なテクニックや反射神経などの経験を必要としましたが、カメラの高性能化に伴い、技術的な垣根はどんどん下がってきています。編成写真と呼ばれるカットはアマでも難なく撮れる時代になりました。
なので、プロにはより際立った個性や独自性が求められています。新しいロケーションを求めて山をさまよい、より良い光を求めて足繁く通います。
新幹線に限らず鉄道写真というジャンルは今、大きな変革期の真っ只中にあるのではないでしょうか。車両中心から、鉄道をモチーフとした表現と裾野は広がっています。今やプロもアマも同じ土俵です。プロが思いつかないような表現にどんどんチャレンジしてみてください。
近年は、残念ながら鉄道の撮影にまつわるトラブルもよく耳にします。自分の追い求めたい被写体や構図があることは、とても素晴らしいことだと思います。
ただもう少し周りを見て、譲り合い、広い心で鉄道写真を楽しむ人が増えてくれたらと切に願っています。そういった心の持ち様はきっと写真にも表れてくるはずです。
大鶴倫宣(おおつるとものり)
1974年福岡県久留米市生まれ。小学生の頃、父親のカメラを勝手に持ち出し、近くの鹿児島本線で東京に向かうブルートレインを撮影し始めたのが鉄道写真との出会い。大学卒業後も会社員の傍ら鉄道写真に励み、雑誌主催の数度の賞などを経て2006年にプロとして独立する。以後、鉄道誌や写真誌への連載や寄稿、著書も多数。近年は鉄道会社の広告や動画撮影も手掛ける。
また商業写真では、料理カメラマンとしての一面も備えている。
日本写真家協会会員
日本鉄道写真作家協会会員
近著『新幹線撮影コンプリートガイド』(2022年イカロス出版刊)