好きを撮る
ずっと植物の写真を撮っています。花の仕事をするうちに写真を撮るようになり、会社で開催された花の写真教室に参加しました。それ以来花に対する見方が変わり、花に関わることが一層楽しくなり、どっぷりハマることになったのです。被写体は様々で、あれもこれも気になりますが、「好きなものを撮る」が一番と思っています。
見る 感じる そして知る
初めて出合う花は、「これは何だろう、名前は何かな？」と思うことでしょう。今なら簡単に調べがついてしまいますが、まずは見ることから始めて、「綺麗」とか「可愛い」とか、「こんなところに？」と感じた瞬間を撮りたいと思います。そして、思い通りに撮れなかったとしても、次に出合った時、これが何であるかを調べて知っていれば、より身近な植物となるに違いありません。
今、この花がここにあるというのには理由があります。もともと日本に自生していたものもあれば、大陸や海を渡ってどこからか自然にやってきたものもあります。また、人の手によって異国からもたらされたものもたくさんあり、一つひとつの植物に歴史があるのです。人の生活の中で、あるいは、それぞれの場所に応じて進化しながら生き続ける植物たち。そのしたたかとも言える戦略にしばしば驚かされます。いつ頃この日本にやってきて、どのように広がり、人々の生活を豊かに彩るようになったか…それらを知ることでぐっとその植物に近づくことができ、想像がふくらみ楽しく撮ることができるのです。
他の花と離れてたった一輪、木々に囲まれた斜面に気持ち良さそうに咲くカタクリの花。花が咲くまで８年かかると言うけれど、何時からここにいるのかな？と想像するだけで、小さな花のその存在を大きく写しとることができます。
カタクリ
自然の中のデザイン
大きな木の下に身を置いて見上げると、花が天から降ってくるように感じます。よく見ると花の層がわかります。一番下の自分の近くの枝に咲く花、その上の枝に咲く花、さらにその上に咲く花たち。レンズを上に向けて絞ると花が画面いっぱいになって自分に迫ってくるように見えます。
花や枝をファインダー越しに見るとき、その中に自然のデザインが見えてきます。枝の流れや交差、花の位置が何とも美しいと感じる瞬間があります。木は自分の枝の葉っぱが、上からの太陽光を最大限にうけられるように最適な場所に枝を出すそうです。自然界に潜む黄金比が見えた時、ただただ感動して、撮るよりずっと見ていたくなります。
サラサモクレン
ことばの魔法
新宿御苑の八重桜「福禄寿」。スマホで撮ってFacebookに載せたら、友人から「桜のヴェールが美しい」とメッセージが届きました。「桜のヴェール」。このことばを覚えておこうと思いました。撮る時に瞬間的に浮かぶ「ことば」は大切です。そこから、何をどのように撮りたいか、イメージを膨らませることができるからです。被写体に向かう時に必要なものの一つと考えています。
サクラ（福禄寿）
雨も楽しい
桜が咲いたと喜んだのもつかの間、菜種梅雨。いつまで経ってもお日様が現れません。雨の日に出かけ、その翌々日も同じ場所に行きました。たった一日で、つぼみだったヤシオツツジが一気に咲きました。激しい雨や気温差が、春の花たちの開花を促す大切な役割を果たしていることがわかりました。雨の中での撮影は大変ですが、雨粒をたたえた花たちの美しい姿を捉えたいとの思いが勝って、雨もぬかるみもへっちゃらになりました。
雨対策は必須です。カメラが濡れないようにするために、ビニールカバーを色々試しましたが、撥水クロスが一番でした。クロスをかけてゴムでとめるだけです。写真は緑萼桜（リョクガクサクラ）です。背景の色のバランスがよい部分を探しながら撮りました。雨の中では雨粒が光って玉ボケができます。ボケの大きさを見ながら絞りを変えています。雨の日は、普段気がつかなかったことがわかったり、見たことのない光景に遭遇したりもします。植物は天気によって、光によって、また気温や空気によって全く違った姿を見せてくれるのです。
リョクガクザクラ
写真家 おちあいまちこ
短大卒業後、会社勤めの傍らマミフラワーデザインスクールに学ぶ
退職後、花の世界へ
2008年4月から恵泉女学園大学公開講座講師
Photocrane 主宰
個展
2002年・2004年 アユミギャラリー（神楽坂）
2004年・2007年・2012年・2015年・2022年 教文館
2017年 SONY福岡天神
共著
『ことばの花束・愛』『ことばの花束・希望』
『歓びのうた祈りのこころ』（日本キリスト教団出版局）
『今日もいいことありますように』
『泣いても笑ってもこころにいい風ふきますように』
『なぐさめの詩』『きぼうの朝』
『野の花の贈りもの』『光の小径』（いのちのことば社）他
著書
『うつくしいもの 八木重吉信仰詩集』
『三浦綾子祈りのことば』（日本キリスト教団出版局）
『青いろノート』（いのちのことば社）他