2023年10月05日 高橋渉
2023.10.13.発売
夢中にさせられた湖の絶景「箱根海賊船」
都心から近い観光地「箱根・芦ノ湖」には、中世のヨーロッパの帆船を思わせる3隻の「箱根海賊船」が運航されている。乗り物好きということもあり、芦ノ湖の風景を撮影出かけたときに海賊船も撮影を していた。この海賊船への興味が、のちに写真展の開催、写真集の出版へつながるとは、この時は想像もしていなかった。
■きっかけはこの1枚
夕景写真の話から、暗い光景の中の海賊船ってどんな感じだろう。思いたったのはいいが夕方に運航を終わってしまう。一年のうちで一番早く日が沈む11月末頃、薄暗い光景で撮れるのではないかと、2019 年11月28日に撮影に出かけることにした。天気予報は雨、より薄暗いのではと期待が膨らむ。元箱根港 に着くと、急な冷え込みで発生した気嵐により幻想的な光景である。その中をゆっくりとやってきた海 賊船はまるで物語に出てくるイメージ。夢中になって撮影した。この美しい光景を多くの人に見てもら いたいと思うが、SNSで投稿するのではもったいない。であれば、写真展で発表しようと、箱根に通 い、海賊船を撮り続けるきっかけとなった。
2019年11月29日 クイーン芦ノ湖
OM-D E-M1 Mark II / M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO
焦点距離 (35mm 換算) : 600.0mm / シャッター速度 : 1/80 秒 / 絞り値 : F4.0 / ISO 感度 : 1600
■もともとは鉄道写真からの発想
四季折々の風景、時間帯の違い、天候の違い、朝日や夕日が反射する瞬間や、星と一緒に撮影する夜景 など、これまでの鉄道撮影の経験から、風景の中の鉄道車両を海賊船に置き換えることで撮れるだろう という発想からのスタートである。水面の輝きや反射、湖面に立ち上がる霧や気嵐など、湖ならではの 自然現象は、鉄道では経験していなかった撮影体験であった。
2020年1月11日 西日があたり、輝くクイーン芦ノ湖・ロワイヤル II
OM-D E-M1X / M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PR
焦点距離 (35mm 換算) : 600.0mm / シャッター速度 : 1/320 秒 / 絞り値 : F6.3 / ISO 感度 : 400
2020年1月19日 雪が降った朝、そこは絶景であった。ロワイヤル II・クイーン芦ノ湖
OM-D E-M1X / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO
焦点距離 (35mm 換算) : 24.0mm / シャッター速度 : 1/160 秒 / 絞り値 : F8.0 / ISO 感度 : 200
2020年3月12日 天体が広がる芦ノ湖で休む、ビクトリー・ロワイヤル II OM-D E-M1X / M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO
焦点距離 (35mm 換算) : 16.0mm /絞り値 : F2.0 / ISO 感度 : 400 ライブコンポジット撮影:28 分(15秒 × 112コマ)
■観光の応援につながる写真展
箱根海賊船の撮影に通い始めて1年半、四季を通した風景も揃ってくる。2021年10月、箱根・宮ノ下「NARAYA CAFÉ GALLERY」で、初の「箱根海賊船」をテーマにした写真展を開催した。観光客に人気のカフェで、芦ノ湖への観光応援につながったと思う。この写真展をきっかけに、2022年10月には神 奈川県南足柄市の温泉施設「モダン湯治 おんりーゆー」、2023年3月には京都市東山区のカフェギャラリー「Gallery Cafe Cherry」での開催につながった。
2021年10月3日 箱根・宮ノ下「NARAYA CAFÉ GALLERY」 写真展「箱根海賊船」
■観光ポスター
撮影した作品が観光の応援になればと、海賊船を運航している箱根観光船株式会社にも相談をしていたところ、2023年3月に小田急電鉄沿線で掲示するポスターのお話をいただいた。
2023年3月箱根海賊船観光ポスター / 新宿駅ロマンスカーホーム
■出版物へのチャレンジ
2024年には箱根海賊船が就航して60周年を迎える。この記念の年に写真展を開催したい、できれば写真集も出版したい、と希望が湧いてくる。写真家としての目標のひとつの写真集出版。いくつか当たって みたところ、旅行読売出版社より出版いただけるお話をいただいた。箱根の外国人観光客にも手に取ってもらえるように制作が進み、2023年10月13日に発売となった。
2023年10月13日発売 高橋 渉 写真集・箱根海賊船「Hakone Pirate Ship」 旅行読売出版社刊
■「身近にあるかも。魅力のある撮影テーマ」
インターネット、SNS の普及で多くの撮影地や情報を得ることができる時代。その反面、有名な撮影地 は、SNS などインターネット上で見かけることも多く、オリジナリティのある表現が難しい。鉄道もそ のひとつだが、例えば公園の保存車両や遊園地・観光地の乗り物は、撮影の対象として捉える人が少な く、撮り方次第で新しい発見がある。箱根海賊船もそのひとつで、撮影テーマとして捉える人が少ない ようで、だからからこそ、自分で発見し、これまでに見たことがなかったオリジナリティのある作品に つながったのだと思う。「みんなが知っている。でも撮影のテーマとして撮っている人がいない。」まだまだあると思う。
2022年10月12日 晩秋の最終船、クイーン芦ノ湖
OM-1 / M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO / 1.4x Teleconverter MC-14
焦点距離 (35mm 換算) : 420.0mm / シャッター速度 : 1/125 秒 / 絞り値 : F5.6 / ISO 感度 : 3200
2020年7月2日 ロワイヤル II に乗船、遠くに見えるのはクイーン芦ノ湖
OM-1 / M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO / 1.4x Teleconverter MC-14
焦点距離 (35mm 換算) : 420.0mm / シャッター速度 : 1/125 秒 / 絞り値 : F5.6 / ISO 感度 : 3200
■わたしにとっての OM SYSTEM 小型軽量という特徴で、広角から望遠まで多用する箱根海賊船の撮影においても機動性が高いが、実際に使ってみると、小さく軽いだけが魅力ではないことに気づかされる。芦ノ湖の悪天候による幻想的な シーンは、夢中になると傘もささず濡れながらの撮影、土砂降りでもあきらめずに撮影できるのはありがたい。高感度性能も上がり、より暗い条件での撮影も可能になった。さらに、手持ちハイレゾショットによる高画質の夕景・夜景、ライブコンポジット機能を使った星が流れた撮影など、オリジナリティ のある作品がプラスになる。OM SYSTEM でも撮れる、ではなく、OM SYSTEM だから撮れる、を感じさせられる。
■プロフィール
高橋 渉 / WATARU TAKAHASHI
OM SYSTEM PLAZA 勤務
写真家・メディアライター
1965年 京都府生まれ・神奈川県在住
公益社団法人 日本写真家協会 (JPS)正会員
公益社団法事 日本広告写真家協会(APA)正会員
公益社団法人 日本写真協会 (PSJ)正会員
幼少のころから鉄道が好きでカメラを始める。1985 年、全国でも珍しい旧国鉄の旧型車両が現役で残っていた岡山県の同和鉱業片上鉄道の魅力に引き込まれ 1991年の廃止まで通い続ける。1988年より写 真業界に従事、鉄道や乗り物、風景・ネイチャーなどの撮影、雑誌・Webメディアなどへの執筆をしている。2018年10月より OM SYSTEM PLAZA(当時オリンパスプラザ)に勤務。作例の撮影や展示・ トークイベント、動画配信などを行っている。
美しい風景も、安全に運行されている乗り物も、そして地元の方々によって維持されている。撮影に出かけた時には、地元で食事をする、宿泊をする、お土産を買う、交通機関を利用するなど、「撮らせていただいている」という気持ちで貢献することが大切だと思う。その上で、撮った作品でできること、これからも考えていきたい。
高橋 渉 写真集・箱根海賊船「Hakone Pirate Ship」 2023.10.13.発売