『ニコン D850』使用レポート(総合性能編)

高画素と高速性能の両方を追求 フルサイズDシリーズの新主力機種登場!!

最近は、高精細な描写の高画素モデルだけでなく、一瞬のチャンスに強い高速性能に秀でたモデルも注目されています。2017年9月発売の「ニコン D850」は、その両方を追求したフルサイズ一眼レフです。そして、最高峰「D5」譲りの高度な撮影機能や、ハイレベルな基本仕様も備えています。今回のレポートでは、その実力の一端を紹介したいと思います。


撮影と解説:吉森信哉

AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRを装着したD850。ボディが薄く設計できるモノコック構造は採用されていないが、グリップ部は深みが増した形状になったのでホールド感は良好。

● D850の特長と仕様、また従来モデルとの違い

ニコンD810は「有効画素数3635万画素」高画素センサーを搭載する、FXフォーマット(35ミリ判フルサイズ)一眼レフの中核を担うモデルでした。JPS会員の中にも、このモデルをメインカメラとして愛用している人は多いでしょう。その後継モデルに当たるのが、今回紹介する『ニコン D850』です。その特長をキャッチフレーズ風に表現すると“より高画素なのに、より高速に!!”といった感じになるでしょうか。

撮像センサーは、新開発「有効4575万画素・裏面照射型CMOSセンサー」で、レンズの解像力が最大限に生かせる光学ローパスフィルターレス仕様。画像処理エンジンは、フラッグシップモデルD5などと同じ「EXPEED5」です。D810は「有効3635万画素CMOSセンサー」の光学ローパスフィルターレス仕様。画像処理エンジンは「EXPEED4」でした。

そして、高速連続撮影に関しては、ボディ単体で「約7コマ/秒」の速度を実現しています。なお、フォーマット設定による速度変化はありません。D810の高速連続撮影性能は「FX時:約5コマ/秒、DXと1.2×時:約6コマ/秒」という値でした。

AF機能に関しても、大きな進化を遂げています。D5と同じ高速で高精度な「153点AFシステム」を採用しており、153点中の99点はより被写体を捉えやすいクロスセンサーになっています。ただし、撮影者が選択可能な測距ポイントは55点になります(D810は51点AFで、15点がクロスセンサー)。

実際に何度かD850を使用して、そのAFの精度の高さが実感できました。正直、多くの一眼レフでは「ファインダー撮影での位相差AFだと、大口径単焦点レンズの開放時のピント精度が少々不安…」と感じていました。しかし、フラッグシップ機D5譲りのAFシステムを採用するD850では、そんな不安はほとんど感じませんでした(撮影後の拡大再生チェックで)。

なお、撮影シーンや使用目的によっては「4575万画素のような高画素は必要ない!」という場合もあるかもしれません。D850はそんな場合にも対応できます。画質モード「RAW」のサイズが、L、M、Sの3つから選べるのです(D810はLとS)。

記録メディアは、高速で信頼性の高いXQDカードとUHS-Ⅱ規格対応SDメモリーカードのダブルスロット仕様になっています。D810の記録メディアは、CFカードとUHS-Ⅰ規格対応SDカードのダブルスロットでした。

   

有効画素数4575万画素のCMOSセンサーは、ニコンデジタル一眼レフ初の裏面照射型を採用。入射光をより効率的にフォトダイオードへ導き、高画素ながら常用感度「ISO25600」を実現。画像処理エンジン「EXPEED 5」と連携で、高感度でも鮮鋭感を保ちながらノイズを抑制。

● 有効画素数「4575万画素」の実力と優位性

D850に採用されるセンサーの有効画素数「4575万画素」は、D810の約1.26倍にあたり、
D750に至っては約1.9倍になる数値です。まあ、“画素数が多いほど高画質”という単純な話ではありませんが、高性能レンズの描写性能をフルに引き出せ、繊細な被写体の細部を緻密に描写できるのが、高画素モデルの醍醐味と言えるでしょう。ちなみに、画素数が「4575万画素」もあれば、A2サイズ(420×594mm)のプリントにも余裕で対応できるでしょう。

ニコンFXフォーマットのデジタル一眼レフでは、初代のD3(2007年11月発売)から「撮像範囲設定」の機能が搭載されていて、必要に応じてDXフォーマット(APS-Cサイズ)などに切り換えることが可能です。それによって、DXフォーマット専用レンズを使用してもケラレが防げたり、レンズの焦点距離が同じでも望遠効果を高める(画角が狭くなる)事ができます。しかし、撮像範囲をFXフォーマットからDXフォーマットに切り換えると、記録画素数は大幅に減少します。たとえば、D810と並んで人気の高い2400万画素機のD750は、DXフォーマットだと約1000万画素に減少します。ところが、D850だとDXフォーマットでも1900万画素以上の画素数が確保できるのです。これによって、DXフォーマットの実用度はより高まってくるでしょう。ちなみに、その際の画素数は、DXフォーマットのフラッグシップ機D500と大差ないレベルです。

寺院の高台から、境内にある宝蔵と五重塔を望む。使用レンズは、描写性能に定評のある大口径標準ズームレンズ。
D850 AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR(30mm) 絞り優先オート F11 1/100秒 WB:自然光オート ISO64

手前にある宝蔵の屋根から、限られた範囲(長辺360ピクセル)を切り出してみる。

肉眼では確認できないような、屋根瓦の先端の模様などがハッキリと判別できる。

 

有効画素数「4575万画素」による緻密な描写と高性能な大口径レンズの描写性能によって、繊細な被写体の細部までハッキリと描写できた。

D850 AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR(180mm) 絞り優先オート F5.6 1/200秒 -0.7補正 WB:自然光オート ISO250

● 従来の“画素数と連写速度”の関係を覆す高速性能

フラッグシップ機は、センサー画素数を抑えて高速化(D5:2082万画素・約12コマ/秒)。それ以外の機種は、画素数によって速さも変わってくる(D750:2432万画素・約6.5コマ/秒、D810:3635万画素・約5コマ/秒、など)。というのが、現在のニコンFXフォーマット機の高速連続撮影の特徴になるでしょうか(例外機種もあり)。

しかし、前述のとおり「D850」は、D810以上の高画素機でありながら、D750以上の「約7コマ/秒」を実現しました。さらに、D850にマルチパワーバッテリーパック MB-D18を装着すると(Li-ionリチャージャブルバッテリーEN-EL18a/EN-EL18bを使用)、より速い「約9コマ/秒」の高速連続撮影も可能になるのです。

また、画像データ量が大きくなる「14ビットロスレス圧縮RAW」設定で約51コマまで、「12ビットロスレス圧縮RAW」設定なら170コマまで。という、大量の連続撮影が可能なのも大きな魅力です(XQDメモリーカード使用など、いくつかの条件下での数値)。

D850本体のみで「約7コマ/秒」の高速連続撮影。マルチパワーバッテリーパック MB-D18装着時「約9コマ/秒」ほどのインパクトはないが、それでも「5コマ/秒」程度のカメラとは違うスピード感や実写結果は得られる。

D850 AF-S NIKKOR 28-300mm f/3.5-5.6G ED VR(300mm) シャッター優先オート F5.6 1/2000秒 WB:オート1 ISO500

 

D850で快適な高速連続撮影をおこなうには、バッファメモリーに蓄えた撮影データが迅速に書き込める「XQDメモリーカード」の使用が必須になるだろう。


「マルチバッテリーパック MB-D18」には、縦位置撮影に便利なシャッターボタンの他、ファンクションボタン、AF作動ボタン、マルチセレクター、メインコマンドダイヤル、サブコマンドダイヤル、など本体並みの操作パーツを装備。また、D850ボディと同様のシーリングを施したマグネシウム合金ボディーで、高い防塵・防滴性能も持っている。

● タッチパネル対応のチルト式モニターを採用

3.2型の画像モニターが、ニコンFXフォーマット初の「タッチパネル対応・チルト式」になった点も、D850の大きな進化ポイントです(D750のチルト式モニターはタッチパネル非対応)。

チルト機能の採用によって、変則的なカメラポジションやアングルでのライブビュー撮影が、かなり快適におこなえるようになります。D850のチルト式モニターには「3軸ヒンジ構造」が採用されています。これにより、上向き時にはファインダー接眼部に遮られず、三脚使用時でもスムーズに下向きに可動できる、といったメリットが生まれてきます。

タッチ機能に関しては、メニュー設定や、撮影時のフォーカスポイント(AF測距点)選択やレリーズ操作。また、D5と同様のフレームアドバンスバーを使った高速画像切り換えや、著作権情報などの文字入力。こういった様々な操作が、タッチ操作によって迅速におこなえるのです。

D850は可動式(チルト式)液晶モニターを搭載するが、D810と比べて特に厚みは感じない。また、内蔵フラッシュを廃止したことで、ペンタ部の前方せり出しが抑えられている。

屋内に展示されるスポーツカーを、床面すれすれの低い位置から狙う。AF測距点はタッチ操作で選択。液晶モニターのチルト機構を活用したライブビュー撮影なら、こういった撮影も快適におこなえる。

D850 AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR(26mm) 絞り優先オート F8 1/10秒 WB:オート0 ISO1600

● 新しいホワイトバランス「自然光オート」とは?

画像の仕上がりに関する機能では、DXフォーマット機D7500(2017年6月発売)で初搭載された、ピクチャーコントロールの「オート」が搭載されています。また、このD850が初となる、ホワイトバランスの「自然光オート」も搭載されています。これは、光源を自然光に限定して、より適切なホワイトバランスが得られるモードです。このホワイトバランスのモードによって、紅葉や夕焼けなどのシーンが、より印象的な画像に仕上げられる、との事です。

今回は、被写体が少し黄みを帯びる…。そんな夕方近くの時間帯に、一般的に多用されるホワイトバランスの「オート1※」と「晴天」、そして新モード「自然光オート」の3モードで撮り比べてみました(※オートには0、1、2の3種類があり、標準的なモードがオート1になります)。「オート1」は、黄みがかなり補正されていて、偏りの少ない色再現ですが、夕方らしさはあまり感じられません。「自然光オート」は、適度に黄みと赤みを感じる、見た目に近い好ましい色再現で、青空の色も美しく感じられます。風景撮影に多用される「晴天」は、黄みが強く出て夕方らしさが増しますが、そのぶん青空は少々濁った印象になりました。

WB:オート1

WB:自然光オート

WB:晴天

共通データ:D850 AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR(52mm) 絞り優先オート F8 1/320秒 ISO64 三脚

● 暗所撮影で威力を発揮する「ボタンイルミネーション」機能

三脚使用が不可欠な暗所撮影では、使い慣れたカメラでも各操作ボタンの位置がわからなかったり押し間違えたりしがちです。ですから、携帯ライトやスマホの照明などでボタンを照らしながら操作する人も多いでしょう。しかし、このD850には、D5とD500と同様に「ボタンイルミネーション」機能が搭載されています。電源スイッチの操作によって、背面左側のボタンやレリーズモードダイヤルのボタンが、透過照明を採用したイルミネーションでハッキリと確認できるのです(表示パネル照明と連動)。この機能を使用すれば、暗所での撮影(各種操作)が非常に快適に行えるのです。

通常、ボタンイルミネーションの機能は、電源スイッチの操作で機能する。だが、カスタムメニューの「d10 イルミネーター点灯」を「する」に設定すれば、レリーズの半押しタイマー作動中に機能するようになる。

被写体はライトアップされているが、撮影者の周辺は灯りがなくて薄暗い…という状況は結構多い。そういった状況でも、イルミネーション機能は威力を発揮する。

D850 AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR(62mm) 絞り優先オート F2.8 1/30秒 -0.3補正 WB:オート0 ISO12800

●先進の機能を数多く搭載。バッテリー寿命の長さも大きな魅力

注目したい機能や仕様は、他にも数多くあります。FXフォーマットベースでの「4K UHD/30p」動画撮影に対応している点や、人工照明下の静止画撮影で明暗や色のバラツキが回避できる「フリッカー低減機能」の搭載、機構ブレを徹底的に低減する「シャッターカウンターバランサー」の初搭載。こういった機能が挙げられます。

また、徹底した省電力設計により、1回の電池充電で撮影できる目安が多い(長い)点も見逃せません。カメラ本体でも「静止画約1840コマ、動画約70分」、別売のマルチパワーバッテリーパックでEN-EL18b併用時には「静止画約5140コマ、動画約215分」。こういった基本仕様のレベルの高さもD850の特長と言えますし、躍進を続けるミラーレス一眼カメラに対する大きなアドバンテージにもなります。

●ネガフィルムを簡単にデジタルデータに変換!

D850には「ネガフィルムデジタイズ」という機能※が搭載されていて、別売の「フィルムデジタイズアダプター ES-2」を使用することで、35mm判のカラーやモノクロのネガフィルムを簡単に4544万画素(記録画素数)のデジタルデータに変換できます(※ライブビュー撮影時の機能)。AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G EDなどのレンズにフィルムデジタイズアダプター ES-2を装着し、フィルムをセットしたストリップフィルムホルダー FH-4またはスライドマウントホルダー FH-5(いずれもES-2に付属)を取り付けて撮影。すると、自動的にポジ反転してJPEG画像として保存されるのです。

このフィルムアダプターは、今春(2018年3月中旬)の発売が予定されています。D850の高画素を生かしながら、短時間でデジタルデータ変換が可能な、この撮影アクセサリーに関心を持つ人は多いでしょう。ということで、次回はこの「フィルムデジタイズアダプター ES-2」の使用レポートをお送りしたいと思います。


左上が、フィルムデジタイズアダプター ES-2の本体。