身近になった「超望遠ズームレンズ」 ~その魅力と活用法~

撮影:柳川勤

カメラボディと標準と望遠のズームレンズ2本がセットになった、いわゆる“ダブルズームキット”。一眼レフやミラーレスカメラを購入する際、こういった商品を選ぶ人も多いでしょう。そこに含まれる望遠ズームレンズを使用すれば、200mmや300mm相当の望遠画角までカバーする事ができます。
この200mmや300mm相当の画角も、本格的な望遠域と言えます。ですが、近年では、遠くの被写体や風景がより大きく写せる「超望遠ズームレンズ」が多く発売されています。それによって、かつては特殊だった超望遠撮影が、ずいぶん身近なものになりました。
現在の超望遠ズームレンズの特長や魅力は、どんな部分になるでしょうか? また、超望遠撮影の難しさや注意点は? そんな気になる部分や疑問点を、ミラーレスカメラで実写しながら探ってみたいと思います。

(撮影:JPS 柳川勤、撮影と執筆:JPS 吉森信哉 機材協力:OMデジタルソリューションズ株式会社、株式会社シグマ)

〈 使用した超望遠ズームレンズ・その1 〉
SIGMA 150-600mm F5-6.3 DG DN OS | Sports

最新の光学設計技術を基盤にして、プロユースにも応える高い光学性能を実現。超望遠レンズで重要視されるテレ端の性能はもちろん、全てのズーム域で妥協のない高い解像感とクリアな描写を実現する。また、Lマウント用の製品では、別売の専用テレコンバーターの使用によって、最大1200mmでのAF撮影が可能になる(今回はソニーEマウント用を使用)。90度ごとのクリックストップが設けられた三脚座の使用感も良好。

●メーカー製品情報
https://www.sigma-global.com/jp/lenses/s021_150_600_5_63/

〈 使用した超望遠ズームレンズ・その2 〉
OM SYSTEM M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS

35mm判換算で200~800mm相当をカバーする、超望遠性能と小型軽量を両立した高性能ズームレンズ。持ち運びしやすいサイズながら、ズーム全域で高い描写力を発揮する光学性能と、優れた近接撮影性能を実現。また、PROシリーズレンズ譲りの防塵・防滴性能も併せ持つ。別売の2倍テレコンバーター MC-20を使用すれば、最大1600mm相当という驚異的な超望遠撮影も可能になる。

●メーカー製品情報
https://jp.omsystem.com/product/lens/zoom/mzuiko/100-400_50-63is/index.html

小型軽量&高性能な高倍率ズームレンズの台頭で“超望遠の世界”が身近に!

 

約4.5km先の新宿超高層ビル群を望む。標準の50mmと比べると、300mmでもかなりの望遠効果が感じられる。そして、600mmや800mmの画面になると、肉眼では気が付かないような細部の様子も確認できるようになる。
(※焦点距離はいずれも35mm判換算の値)

 

「超望遠」の定義は、年代やメーカー、また人によっても違いが生じてくるでしょう。かつては300mmくらいから超望遠と呼ぶメーカーもありましたが、現在では400mm相当くらいから「超望遠レンズ」と呼ぶ事が多いようです。ちなみに、400mm“相当”と述べましたが、これはレンズの焦点距離が同じでも、使用カメラのセンサーサイズによって画角が変わってくるためです。

フィルムAF一眼レフ用の時代にも、タムロンの「AF 200-400mm F5.6 DL [IF]」のような、小型で軽量(しかも安価)な超望遠ズームレンズが発売されていました(1994年発売)。そして、フィルムからデジタルへ。デジタル一眼レフからミラーレスカメラへ……。と、カメラが進化するにつれ、超望遠ズームレンズも進化し、その製品バリエーションも増えてきました。200-500mm F5.6、150-600mm F5-6.3。こういった500mm以上までカバーする小型軽量設計で比較的安価な超望遠ズームレンズも発売され、多くのカメラユーザーに使用されるようになりました。そんな製品の登場により“超望遠の世界”も、特別な世界ではなくなってきたようです。

テレコン対応レンズなら、超望遠効果がさらにアップ!

600mmや800mm相当でも十分な超望遠だが、そのレンズに専用テレコンバーター(多くは別売)が使用できれば、その効果がさらにアップする。今回の撮影では、M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 ISに「テレコンバーター MC-20」を装着。これによって“1600mm相当”という桁違いの超望遠撮影が可能に!

 

猛禽類が集められた巨大なバードケージ。その中の木に止まるワシを、超望遠ズームレンズで狙ってみたい(この状況写真は28mm相当の広角で撮影したもの)。

800mm相当

木の頂上に止まっていた、赤い顔が特徴的なダルマワシ。その姿を柵越しに800mm相当(実焦点距離400mm)の望遠端で切り取る。このくらい大きく写せれば、特徴的な表情や毛並みなどがよく分かる。なお、周囲のボケに独特な模様があるのは、背後にあるネットの影響によるもの。
OM SYSTEM OM-1 M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS(400mmで撮影) シャッター優先オート F6.3 1/500秒 WB:オート ISO800 撮影:吉森信哉

1600mm相当

こちらは「テレコンバーター MC-20」を装着して、1600mm相当(実焦点距離800mm)で撮影したもの。像の大きさが2倍になった事で、顔のディテールや眼差しが、より鮮明に見えるようになっている。
OM SYSTEM OM-1 M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS+テレコンバーター MC-20(800mmで撮影) シャッター優先オート F13 1/250秒 WB:オート ISO2500 撮影:吉森信哉

1600mm相当

2022年11月8日の皆既月食の際、途中の“部分食の姿”と、飛行機のシルエットが重なる瞬間を捉えたもの。200mmや300mm相当の望遠で狙っても意外と月は小さく感じるし、飛行機のシルエットは粒のような存在だろう。しかし、2倍のテレコンバーター装着による1600mm相当で狙うと、月の表情や飛行機の存在感が十分感じられる写真に仕上がった。
OM SYSTEM OM-1 M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS+テレコンバーター MC-20(800mmで撮影) マニュアル露出 F18 1/1600秒 WB:晴天 ISO6400 撮影:柳川勤

開放絞りからクリアでシャープな描写が得られる

500mm以上までカバーする超望遠ズームレンズだと「画質は大丈夫なの?」という疑問も湧いてくるでしょう。どんなに迫力のある場面でも、描写がアマかったり不鮮明だったりすると興ざめですからね。しかし、最新の光学設計と製造技術によって作られている現在の超望遠ズームレンズの多くは、そのサイズ・重量や価格からすると、感心するほど上質な描写を得ることができます。

SIGMAの150-600mm F5-6.3 DG DN OS | Sportsは、特殊硝材を複数枚採用した15群25枚構成のレンズ群により、各収差を徹底的に抑制しています。また、フレアやゴーストへの耐性も獲得し、強い日差しや逆光下でもヌケの良い描写が得られます。

OM SYSTEMのM.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 ISは、4枚のEDレンズで色にじみを抑制。そして、スーパーHRレンズ2枚とHRレンズ2枚を組み合わせて、ズーム全域でシャープでクリアな描写を実現します。

こういった優れた光学設計により“超望遠域で絞り開放”という条件でも、画面全体で高解像かつ高コントラストの描写を得る事ができました。

また、どちらの製品にもレンズ内手ブレ補正機構が搭載されています。ですから、適度な撮影条件で正しい使い方をすれば、手持ち撮影でも十分満足できる描写が得られるでしょう。一般的に、手ブレが抑えられるシャッター速度の下限値は“35mm判換算レンズ焦点距離分の1秒”と言われています。ですから、焦点距離500mm相当で補正効果4段の手ブレ補正機能を搭載するレンズ(もしくはカメラ)なら、1/30秒まで手持ち撮影が可能……という計算になります。

 

SIGMA 150-600mm F5-6.3 DG DN OS | Sportsの超望遠域(望遠端)の描写をチェックするため、三脚を使用して、600mmで絞り値を変えながら撮影。それらの画像から、画面左下の部分を切り出してみる(フォーカスはその部分に合わせている)。

 

こうやって切り出した部分を並べてチェックしても、F6.3開放とF11の描写の差はほとんど分からない。“画質面を考慮して少し絞って撮る”という撮影のセオリーは、この類のレンズでは考えなくて良さそうだ(被写界深度を調節する目的は別として)。
(※OM SYSTEM M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 ISでも、同様の描写結果が得られた)

 

 

流線形デザインが特徴的な水上バスが、遠方からこちらに向かって航行してきた。逆光に近い光線状態で浮かび上がる独特なフォルムや船首の波頭をポイントに、600mmの超望遠域で切り取る。高速シャッターを得るため、絞り値は必然的に開放(F6.3)になったが、それによる描写の破綻は見られない。
ソニー α7 III SIGMA 150-600mm F5-6.3 DG DN OS | Sports(600mmで撮影) シャッター優先オート F6.3 1/2000秒 WB:オート ISO1600 撮影:吉森信哉

三脚使用時も手ブレ補正機能でシャープな描写を!

先ほど述べたように、500mm相当を超えるような焦点距離でも、あまり高速ではないシャッター速度での手持ち撮影が可能になります。とはいえ、風景撮影などで構図を一定にしたい場合や、低速シャッターになる場合などでは、三脚を使用する必要があるでしょう。また、三脚使用時には、手ブレ補正機能は「オフ」に設定するのが一般的です。

しかし、超望遠ズームレンズ(超望遠域)の撮影では、三脚を使用しても注意しないと、ブレてしまう危険性があります。超望遠ズームレンズ装着のカメラを三脚に据えて、ファインダー(もしくは背面モニター)の映像を注視してください。レンズの鏡筒に手を添えたり、カメラのグリップを握っただけで、映像が揺れるのが確認できるでしょう。また、強風の屋外撮影では、レンズやカメラに手を触れなくても、映像の揺れが確認されり場合があります。そんな状態で“三脚を使っているから大丈夫”と過信してシャッターを切ると、不本意なブレが生じてしまいます。

特に危険なのが、1/30秒や1/60秒といった、いわゆる“中速シャッター”です。このくらいの速度の三脚撮影では、手ブレ補正機能を「オン」に設定する事で、レリーズ時のブレを抑える効果が期待できます。

ただし、三脚使用時に手ブレ補正機能が誤作動する危険性はゼロではありませんし、撮影環境や撮影者のカメラの扱いによって、ブレ補正効果に差は出てきます。ですから、そういった点も念頭に入れてテストした上で、手ブレ補正機能を活用する事をお勧めします。

 

構図を安定させた状態で、機能の設定を変えたりシャッターチャンスに備える(待機する)には、三脚の使用は欠かせない。

 

三脚使用時には手ブレ補正は「オフ」に設定するもの……。超望遠ズームレンズでの三脚撮影では、そんなセオリーを疑ってみる事も必要。

山道の中腹に三脚を据えて、600mmで画面中央の鉄塔にピントを合わせて(MFで拡大確認機能を使用)撮影。設定シャッター速度は1/30秒。そして、その画像の中央部分を切り出してみる。

手ブレ補正:オフ

画像の全体表示(27型モニターで確認)では気づかなかったが、鉄塔の先端部を切り出してみると、結構ブレている事が確認できる。なお、この条件で撮影した8枚中、微妙な度合も含めて7枚でブレを確認。

手ブレ補正:オン

こちらは、手ブレ補正機能をオンに設定し、シャッターボタン半押しによって十分機能している状態で撮影したもの。オフの時と同様に8枚撮影したが、ブレたカットはゼロだった。

超望遠の作画効果を利用して、肉眼を超えた表現を楽しむ

望遠レンズには、離れた被写体を大きく写したり、風景の一部分を切り取ったりする効果があります。また、奥行きのある空間が近く感じられる圧縮効果も期待できます。超望遠レンズでは、この望遠レンズの効果がさらに高くなるのは容易に想像できるでしょう。

今挙げた望遠~超望遠レンズの効果のうち“離れた被写体が大きく写せる”というのは、最も分かりやすく利用価値の大きい作画効果になります。動物やスポーツなどの撮影で、超望遠レンズが多く使われるのも、当然と言えば当然です。

ですが、それ以外の撮影ジャンル、たとえば、風景やポートレートなどでも、積極的に超望遠レンズを活用したいものです。容易には近づけない被写体や風景でも目の前にあるような臨場感が得られたり、強烈な圧縮効果による“濃密な空間描写”でインパクトを与えたり……。小型設計の超望遠ズームレンズを利用すれば、そういった肉眼の感覚を超える(異なる)映像表現が気軽に楽しめるのですから。

強い圧縮効果で、連なる正月飾りを濃密に描写

圧縮効果の作例写真といえばココ! 浅草寺の仲見世で撮影したもの。雷門から宝蔵門を正面に狙った作例が多いが、ここでは少し横に移動して、斜めの角度から店頭の「舞玉しだれ」に注目して撮影。その店頭飾りが連なる様子が、超望遠の強い圧縮効果によって濃密に再現できた。
ソニー α7 III SIGMA 150-600mm F5-6.3 DG DN OS | Sports(600mmで撮影) 絞り優先オート F16 1/500秒 -0.3補正 WB:オート ISO500 撮影:吉森信哉

遠方の富士山を切り取って雄大に見せる

東京西部の浅川(多摩川の支流)の川土手にて。夕焼け空の鮮やかな色彩と、そこに浮かび上がる富士山のシルエットに惹かれて、600mmの超望遠画角で切り取ってみる。富士山までの距離は60km以上はあるが、超望遠の持つ風景の一部分を切り取る効果と圧縮効果によって、雄大な姿を捉える事ができた。
ソニー α7 III SIGMA 150-600mm F5-6.3 DG DN OS | Sports(600mmで撮影) 絞り優先オート F8 1/500秒 -0.7補正 WB:オート ISO500 撮影:吉森信哉

標準レンズで近距離から撮影したようなリアルな姿が写せる

食事中のライオンと、それを間近で観察するライオンバスを絡めて撮影。自分とライオンまでの距離は35mくらいだろうか。その間合いの被写体を800mm相当で狙うと、50mm相当の標準レンズで“2m強”の距離から撮影した場合と同じ大きさに写る計算になる。近づけない被写体のリアルな姿が写せる訳だ。
OM SYSTEM OM-1 M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS(400mmで撮影) シャッター優先オート F6.3 1/1000秒 -0.3補正 WB:オート ISO800 撮影:吉森信哉

暗闇の中の小さな出入口。そこでの光と影のドラマを切り取る

地下駅のホームの端から、隣の地上駅からこちらに向かう列車を、800mm相当の画角で切り取ってみた。暗い地下空間の先にある“小さな出入口”。そこで繰り広げられる光と影の変化に富んだ列車の様子が興味深かった。
OM SYSTEM OM-1 M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS(400mmで撮影) マニュアル露出 F8 1/1250秒 WB:晴天 ISO400 撮影:吉森信哉