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生き抜く力をとらえた写真に、人間の本質が表現されている。写真展『生きる』実行委員長
管 洋志 Suga Hiroshi

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2011年3月11日に発生した東日本大震災は、日本人にとって「『生きる』とは何か?」「『豊かさ』とは何なのか?」「家族は友人は」と自らに問いかけ人生観までもが変えられた出来事でした。そして言葉では言い尽くせぬ悲しい体験をしてなお、笑顔を忘れず、前を向いて歩みを進める被災者たちの姿に、僕は「生きる」ということそれ自体がいかに尊い営みであるか、そして何の変哲もない日常がいかに幸せに満ちているかを教えられた。

震災直後から、災害の様子や人間の営みを伝える数多くの写真が、報道機関を通じて、あるいは写真集や写真展などを通じて発表されてきました。そうしたなかで被災から1年後の3月、『公益社団法人日本写真家協会』が東京と仙台で開催した写真展『生きる』は、異彩を放つ展覧会として国内外の注目を集めました。そして今回、ドイツ・ケルンで開催される『フォトキナ2012』を会場にして再び、同写真展が開かれることになりました。

被災者の視点で撮影された作品群

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この写真展が異彩を放つ理由は、被災地に暮らす被災者の視点で撮られた作品により構成されていることにあります。それも災害の様子を伝える写真のみならず、震災直後から今日までの復興の様子をとらえた写真、そして何より被災した人々が愛してやまない震災前の故郷の様子を写した写真が人の心に伝わり共感を呼んだことが特徴です。

被災地に暮らす多くの写真家の力を借りて収集された作品には、どれも真摯なメッセージが込められ、準備段階から質の高い写真展になると収集に力が入りました。ここに展示される116点の作品はみな、"心が動いたとき"に撮影されたものばかり。しかも、被写体への並々ならぬ想いが込められています。こうした写真には、技術の巧拙や理屈を超えて、観る者の心を揺さぶる力があると信じ企画を進めてきました。

甚大な被害を受けた東北地方は、日本でも豊かな自然が残る地域として知られています。そこに暮らす人たちは、「人間は自然なくしては生きていけない」ことをよく知っています。だから大震災を経験しても自然を敵視することなく、昔からそうであったように、再び自然との共存を目指して復興の歩みを進めています。僕は現地に何度となく足を運び、被災者に接し、会話を重ねる度に、"人間の原点"を見る思いで取材を進めてきました。

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写真展『生きる』は、こうした東北の人たちの「生き抜く力」が活写されています。そして、「人間の本質」が表現されています。その作品は、フォトキナに集まる世界中の人々の目に触れ、一枚の写真の力、そして写真展全体で体感していただく人間の根源的なエネルギーは、たとえ宗教や人種が違っていても、心の奥深く感じてもらえると確信します。

管 洋志 (すが・ひろし)

管 洋志

1945年生まれ。写真家、公益社団法人日本写真家協会・常務理事。「人間の生き様」や、日本やアジアに見られる「信仰や自然観」をテーマにした作品を撮り続け、土門拳賞などを受賞。震災後は被災地に何度となく赴き、地元の写真家や写真愛好家たちとの信頼関係を築き取材を続け、今回の写真展を通して後世に伝えるべき作品を構成した。